潮にのってきた彼女
この海で

+Ⅰ

沈んでは昇る太陽は、その度に新しくエネルギーの溢れた熱をせっせと運んで来た。
そろそろ潮風にもぬるさが混じってくる。
日付はもう、8月に入ろうとしていた。


まだまだ暑さは衰える気配を見せない。
都会よりはマシと言えど、さすがに気が滅入る。

だけど晴天が続いてくれることは素直に嬉しい。

晴れの日がやっぱり一番綺麗に波も煌めくし、雲ひとつない、青く冴え切った空を見ていると、島にいることをありがたく感じられる。





俺は1日とおかずアクアに会いに行った。

もちろん会いたいからという単純な気持ちが一番の理由だが、家にいる時間を減らせる、というのも、ひとつの理由であると認めざるを得なかった。



千歳さんは、野球が好きだった。
家のテレビからは毎日のように、野球、甲子園、という単語が聞こえてきた。


ばあちゃんに詳しく話をしたことはない。
しかし、俺が野球の推薦で高校に入ったということは知っているはずだから、島に来た原因にも薄々感づいてはいるのだろう。

しかしばあちゃんは、あからさまに俺を気遣うような行動をひとつもとったことがなかった。

俺は俺で、夏帆に電話をしたあの日から逃げの姿勢からだけは脱却したつもりだったので、ばあちゃんの態度はかえってありがたかった。


それでも野球の試合を見ることは半年前の自分を思い出すことで、辛くないと言えば完全に嘘になる。

足は海へ向いてしまう。


野球への思いが、断ち切れていないのだ。
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