潮にのってきた彼女
「それで、七海は船井先生が好きって噂なの」

「船井先生ねえ……」

「そりゃ若くてかっこいい方だけど、歳の差15は厳しいところだと思うな」


夏帆は手ごろな台詞での会話を続けた。

会話は自然と、つきあって数ヶ月のカップルにふさわしい感じのものではなく、友達とのもののようになった。

要するに、内容が当たり障りのないことばかりで、やりやすい会話だった。
深く考えなくても相づちがうてるような。
もちろん、全てに浅い考えで返事をしていたというわけではないつもりだけれど。


それにしても、今日の夏帆は饒舌だった。
発する言葉の数を割合で表すと、俺:夏帆は、3:7ぐらいだった。
3の内の2は大体感動詞だった。


俺は時々、そろそろ砂の上を歩くのを止めよう、と言った。階段を上って道路を小回りに歩いたほうが岬に早く着くよ、と。
だけど夏帆は頑なに拒み続けた。

あまり近くまで砂の上を歩いていると、海岸線は湾曲しているので、岬の下の洞くつに気がつかないとも限らなかった。

やきもきする俺を余所に、夏帆の足と舌は滑らかに動き続けた。





「そろそろ階段上がって、歩こうか。もうちょっとしたら、岩だらけになるね、ここ」


夏帆がそう言ってくれた時は、心底ほっとした。

ひいらぎ岬までは、残り5分くらい歩けばよかった。
いつもは自転車だったけれど、歩きだと岬は結構遠かった。


「あたしも海側の家がよかったなあ」


階段を上がって普通の道路に出た時、夏帆は言った。


「山側もいいじゃん。海だってそんなに遠いわけじゃないし」

「……遠いよ」


夏帆は俯いていた。


「結構遠く感じるんだよ」


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