潮にのってきた彼女
岬に着いてベンチに座った時、時刻は3時半だった。


俺は近所の土産物屋に、飲み物を買いに行った。
真珠のコーナーをちらりと覗く。
連なって首飾りになったものはない。
古びた看板の土産物屋をあとにする。


岬に戻ると、夏帆はサンダルを脱ぎ、海の方を向いてベンチに上で立っていた。


「はい」

「ありがと」


ビー玉入りのラムネを渡す。
夏帆は受け取ると、裸足のままベンチに座った。

茶色めのミディアムヘアーが潮風になびく。
足首の見える程度の長さの白いスカートがふわりと膨らんだ。


「足、痛い?」

「ううん。裸足になりたかっただけ」


夏帆は細いストラップのサンダルを片手で持って、またベンチの上に立った。


「……ここってすごいね!」


その場で360°くるりと回って夏帆は言った。


「海が視界一面埋め尽くす場所にいるのに、少し体をひねれば、道路の向こうには林が広がってて、あれを通り抜けたら山の麓に着くんだよねー」


こっちを向いた夏帆を、一歩下がって見た。
左手に海を抱き、右手に緑を従えている。

夏の緑は濃い。
濃くきらめいて、黒々とした影を投げる。
海はその緑色にも負けないほど鮮やかな青色を、一心にきらめかす。
やっぱり、夏は特に。

確かにここはすごい場所だ。
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