潮にのってきた彼女
「今何時?」

「4時前」


ぷしゅあっと豪快な音と共にラムネが開いた。
夏帆は手についたラムネの泡を振り払いながら言った。


「夕暮れまで、喋って待とー。今日は海に沈む夕陽を見に来たんだからねー」


哀しそうに笑った顔。
一瞬。

夏帆が、ただ「可愛い」のではなく、「愛しい」の感情と重なって見えた。



俺たちは岬の柵に寄りかかって、寄り添った。

ぎこちなさがないわけでもなかったが、会話は割とスムーズに始まって、スムーズに続けられた。


俺は夏帆とちゃんと話ができる時を待っていたはずだった。
絶好の、なんて言い方をするべきではないけれど、チャンスだった。
きちんと気持ちを伝えるための。


真珠の養殖場に行ったという話をしたあと、少し沈黙があった。


「……夏帆」


俺は小さく決心をした。
のだったのだが。


「あのさー」


思いっきり、思いっきり。
夏帆は言葉を遮った。
まるで俺が言い出すことを、前々から予測していたかのように。
遮る瞬間を待ち構えていたかのように。

そして、俺の顔を見て夏帆は続けた。
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