あの頃のキミはもういない

雅也said

俺は今、学校の多目的教室にいる｡

何でかって？

それは婚約者の女に無理矢理連れてこられたからだ(笑)


「雅也君、本当に私で良いの？」

「……あぁ」


「でも貴方には……」

女の声をさえぎるように、俺はキスをした｡

他人の口から、愛奈のことを聞きたくなかったから｡


「俺はお前を選んだ｡それのどこが悪いんだ？」

こんなのは単なるこじつけ｡

別にこんな女選んでない｡

ただ……愛奈を守るために……｡


「……は、ぁ……」

自分の気持ちを消したくて、俺は激しくキスをした｡


「ま……まさ……や……」

女が苦しもうがどうでも良い｡
俺はただこの気持ちを消せたらそれで良い｡


「はい。ご馳走さま」

「もう……雅也君たら……」

正直こんな女が照れてるの見ても何も思わない｡

愛奈だったら理性効かなくなってんのかな｡

あーダメだ｡
また愛奈のこと考えてる｡

再び女にキスをしようとした時……

「？」

出口の方から何か人の気配がした｡

「雅也？」

俺はそっとドアを開け、部屋の外を見た｡


「愛奈……？」

向こうに走っていく人影｡


「愛奈！」

俺はそれが愛奈だと確信した。

「雅也待って！」

咄嗟に俺の腕を掴んだ婚約者の女｡

「離せ！俺は愛奈を……」

「私を選んでくれたんでしょ！？だったらどこにも行かないでよ……」

「っ……」

そうだ……
俺は愛奈を捨ててこいつを選んだ｡

愛奈を守るためとか自分に言い聞かして……｡


俺は泣き崩れる女の横に立ち尽くした｡



「修羅場だねぇ」

藤川が物陰に隠れてそう呟いているのも知らずに｡