あの頃のキミはもういない
やっと終わって帰れるかと思ったら

「あ、佐川。職員室に来い。遅刻指導だ」

マジかよ……

めんどくせぇ……。

「はぁ?嫌だよめんどくせぇ」

「いいから来い!」

俺は無理矢理職員室に連れて行かれた。


何でこうなるかね……。

てか、愛奈のこと、気になるんだけど……。


30分後。
やっと先生のお説教が終わった。

たくっ。耳元で怒鳴るなよな。
耳の鼓膜破れたらどうすんだよ。


「雅也君!」

疲れきった俺に声をかけてきたのは……

「!」

愛奈だった。


な……何してんだよこんな時間まで。

そう言いたいのに、 何故か口が動かない。

驚いてとかそんなベタな理由じゃない。

単純に、愛奈を傷つけたくないだけ。

俺と関われば、愛奈が傷つくって分かってるから。

ー「悲しい時はこれ見て思い出せ!」
「雅也君……」ー

もうあの時だけで充分だ。

愛奈に辛い思いさせるのはあの時だけで充分。


勝手なのは分かってる。

だけど……もう愛奈を傷つけたくない。


「人違いなんじゃねぇの?」


今の俺にはそんな言葉しか言えなかった。

泣きそうになってる愛奈の横を通って俺は学校を出た。

本当は今すぐ愛奈を抱きしめてやりたい。

「久しぶり」って……その言葉だけでも言いたい。

愛奈を慰めてやりたい。


でも……そんなことしたら……愛奈が傷つくから……。

俺はもう……愛奈に優しくしてやれない。

昔みたいに……仲良く写真を撮れない。

「愛奈……」

鞄に入れていた愛奈とガキの時に撮った写真を眺めながらポソリと呟いた。

その呟いた声は淡く……儚く……春の空に消えていった……。


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