シンデレラを捕まえて
「全く、宮田くんってば後ろに俺がいるって分かっててやってるからなあ。もう俺は降りたから威嚇しないでって伝えてよね」
「あ、えと、その」
何て言っていいのか分からなくてオロオロしてしまう。それを愉快そうに見る安達さんの頭を、紗瑛さんが丸めた書類でポコンと叩いた。
「あんたねー、そう言うこと言うからカノジョできないんだって」
「あいた。えー、俺だってかわいそうな傷心男ですよ。高梨さんをからかうくらい、いいじゃないですかぁ。なにより面白いし」
「面白いって理由だけで困らせないの!」
もう、と呆れたように息をついた紗瑛さんが、私に笑いかけた。
「今日は美羽ちゃんの仕事を安達が引き受けてくれるって。よかったわねー、定時で帰りなさいよ」
「え、え? でも紗瑛さん私」
「えー、俺ぇ?」
「久しぶりに会うんでしょ? 穂波くん、現場に籠りっきりだったものね」
「あ、そうですけど……、でもなんで紗枝さんが知ってるんですか?」
私は紗枝さんに穂波君とのことは言ってなかったはずだけれど。
「そりゃ、わかるわよ。安達がヘタレてきたから、美羽ちゃんに他に男がいるんだってことは。それが穂波くんだっていうのも、当然。だってあの子、美羽ちゃんの前だとすっごくシッポ振ってるもの」
「シッポ、ですか……」
「そうよ。さあ、とにかく、今日は早く帰りなさい」
ふふ、と笑う紗瑛さんを、思わず拝んだ。
「ありがとうございます」
「えー、俺抜きで決定してない?」
もー、と唇を尖らせた安達さんだったが、それでも終業時間前には、私の机から書類をかっさらって行った。
「このお礼は、レイピアの黒ゴマブランマンジェでいいよ」
「ガレットもつけますね!」
「はいはい、楽しみにしてるよ」
そうして私は、あっさりと帰らせてもらったのだった。
しかし、急いで待ち合わせ場所に向かおうとしていた私は、携帯に届いたメールで足を止めてしまった。
『急な依頼が入って大塚センセと客先に行かなくちゃいけなくなりました。今日はキャンセルさせてください。今度この埋め合わせは必ずするから。ごめんね』
アスファルトに、長い影が伸びる。立ち止まった私は、ため息を一つついて携帯をバッグに押し込んだ。
「ばか」
楽しみにしてたのに。穂波のばか。
踵を返して、私はとぼとぼと帰路についたのだった。
「あ、えと、その」
何て言っていいのか分からなくてオロオロしてしまう。それを愉快そうに見る安達さんの頭を、紗瑛さんが丸めた書類でポコンと叩いた。
「あんたねー、そう言うこと言うからカノジョできないんだって」
「あいた。えー、俺だってかわいそうな傷心男ですよ。高梨さんをからかうくらい、いいじゃないですかぁ。なにより面白いし」
「面白いって理由だけで困らせないの!」
もう、と呆れたように息をついた紗瑛さんが、私に笑いかけた。
「今日は美羽ちゃんの仕事を安達が引き受けてくれるって。よかったわねー、定時で帰りなさいよ」
「え、え? でも紗瑛さん私」
「えー、俺ぇ?」
「久しぶりに会うんでしょ? 穂波くん、現場に籠りっきりだったものね」
「あ、そうですけど……、でもなんで紗枝さんが知ってるんですか?」
私は紗枝さんに穂波君とのことは言ってなかったはずだけれど。
「そりゃ、わかるわよ。安達がヘタレてきたから、美羽ちゃんに他に男がいるんだってことは。それが穂波くんだっていうのも、当然。だってあの子、美羽ちゃんの前だとすっごくシッポ振ってるもの」
「シッポ、ですか……」
「そうよ。さあ、とにかく、今日は早く帰りなさい」
ふふ、と笑う紗瑛さんを、思わず拝んだ。
「ありがとうございます」
「えー、俺抜きで決定してない?」
もー、と唇を尖らせた安達さんだったが、それでも終業時間前には、私の机から書類をかっさらって行った。
「このお礼は、レイピアの黒ゴマブランマンジェでいいよ」
「ガレットもつけますね!」
「はいはい、楽しみにしてるよ」
そうして私は、あっさりと帰らせてもらったのだった。
しかし、急いで待ち合わせ場所に向かおうとしていた私は、携帯に届いたメールで足を止めてしまった。
『急な依頼が入って大塚センセと客先に行かなくちゃいけなくなりました。今日はキャンセルさせてください。今度この埋め合わせは必ずするから。ごめんね』
アスファルトに、長い影が伸びる。立ち止まった私は、ため息を一つついて携帯をバッグに押し込んだ。
「ばか」
楽しみにしてたのに。穂波のばか。
踵を返して、私はとぼとぼと帰路についたのだった。