シンデレラを捕まえて


 穂波くんから連絡が来たのは、それから一週間後のことだった。


「会える?」


かしこまった声に、もしかしてと不安を抱いた。それでも、私は仕事の後にGIRASOLで会おうという彼の言葉に頷いた。


「――やあ、久しぶり、美羽ちゃん」

「こんばんは、セシルさん」


私を出迎えてくれた男性は、相変わらず大人っぽくて素敵だった。そして、溢れる家具たちもまた温かな表情で私を出迎えてくれた。


「穂波から連絡あって、席はとってあるよ。奥にどうぞ」

「あ、はーい」


穂波くんはまだのようだった。いつだったかに「欲しい」と叫んだ椅子に腰かける。手入れの行き届いたそれはやっぱり私の好きなデザインだと思う。
店内を見渡していると、待ち人が現れた。


「ごめん、美羽さん。待たせた」

「ううん、ついさっき来たばかりだから」


私の前に腰かけた穂波くんは、私をぐるりと見回して眉間にきゅっと皺を刻んだ。


「何か少しやせてない? メシ食ってる?」

「ん? んー、うん。食べてるよ?」

「そうかなあ。まあいいや、いっぱい頼むから、いっぱい食べなさい」

「ふふ、はい」


そうして、穂波くんがオーダーしたのは、ほとんどが私の好きな料理だった。


「すごいね、穂波くん。どうして私の好きな物が分かるの」

「そりゃ、無駄にここでバイトしてないよ」


驚く私にくすくすと笑って見せる。それはいつもの穂波くんの笑顔でほっとする。
これまでは本当に仕事が忙しかっただけだったんだ、と思わせてくれる。

テーブルの上のお皿の大半が空になってきたころだった。
穂波くんが、「これ」と小さな箱を取り出した。


< 122 / 128 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop