シンデレラを捕まえて
「なに?」

「開けてくれる?」


縁に小さな花が彫り込まれている木製の小箱は、私の手のひらにすっぽりと入る大きさだ。上蓋を持ち上げると、カコ、と小さな音がした。


「あ……」


青いクッションの上に、ネックレスがちょこんと乗っていた。

細やかな透かし模様が施された木製の額の中はレジンが流し込まれていて、ぷっくりと膨らんでいる。綺麗なその空間には真っ白のレースと、スワロフスキービーズ、それとキラキラと輝く銀の靴が収まっていた。


「これ、シンデレラ……?」

「あ、分かってくれた? うん、美羽さんの為だけにネックレス作りたいって思った時、真っ先に思い浮かんだテーマなんだ」


穂波くんはちょっと照れたように笑った。


「美羽さんの持ってくれてるネックレスは誰かに向けて作った物でさ、美羽さんの為にってわけじゃないでしょ。前に美羽さんの部屋に泊まってあのネックレス見た時からずっと、作ろうって思ってて。でも女性用のアクセサリーのデザインなんて簡単に思いつかなくてさ。
そんな時、優真の作ったアクセサリー見てこれだ! って思って。美羽さんもすげえ気に入った感じだったし。で、あいつに頼んで教えてもらったんだ」

「へ? あいつって、優真さん?」

「そう。そしたら優真がさ、家具作りについて教えてくれなきゃ教えない、なんて言うんだよ。だからしばらくあいつの作業を見てやって、教えてさあ。途中から大塚センセが他の生徒も連れてきやがって、俺の家が一時期学生の合宿所みたいになったんだ」


穂波くんは、沢山の高校生を相手に、連日講義を行っていたらしい。
鉋研ぎや原寸図の書き方など質問が止まなくて、目が回る忙しさで困ったよ、と穂波くんは眉尻を下げて笑った。


「合宿所……。ってことは、泊まったりとかも?」

「そう。女子部屋と男子部屋とか作りやがってさ。大変だった。あ、もちろん女の子と二人きりなんて日はなかったから、勘違いしないで」

「そ、っか」


ゆっくりと、胸の奥にあったおもりが解けていく。今までの不安が、面白いくらいに消えていく。
そんなことを知りもしないのだろう。穂波くんは屈託なく笑う。


「とまあ、十日くらいバタバタしたおかげで教えてもらえたんだ。ごめんな、美羽さん驚かせたくて黙ってたんだけど、結構怪しまれる行動だったかもって反省してる。俺ってサプライズとか下手なんだな」

「……う、ううん……」


ふるふると、首を横に振った。キラキラしたシンデレラの世界が次第に滲んでいく。


「ありが、と……」

「ねえねえ、つけていい?」


穂波くんが私の手からネックレスを取り上げ、立ち上がった。ぐるりとテーブルを回り、私の背後に回る。
そっとかけられたネックレスは、心地よい重みと共に胸元に納まった。

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