シンデレラを捕まえて
「すごく、可愛い。ありがとう」
指で摘まみあげて言う。私の為のガラスの靴が柔らかく光っていた。その上に、頬を伝った涙が一粒落ちた。
「ごめん、ね……。私、少しだけ、ううん、いっぱい、穂波くんの気持ち疑った。もう、だめなのかと思った。私より助けになれる人がいるなら、その人の方がいいかもって考えた」
切れ切れに言った。
「……それ、優真のこと?」
僅かの沈黙。その後のぼそりとした穂波くんの呟きに驚いて顔を向けると、「ごめん」と頭を下げられた。
「あいつに言われるまで、そんな感情持ってるなんて思わなかったんだ。俺が悪かった、ごめんなさい」
「ほ、穂波くん?」
「けど、優真にははっきり言ったから。大事な人は一人しかいないって。信じて?」
そっと顔を上げた穂波くんが、「ねえ、そのクッションの下、見て」と言った。
「下?」
小箱の中からクッションを取り出す。その下には、ネックレスと同じデザインのキーホルダーがあって、その先には鈍く光る鍵が一つ。
「一緒に、暮らしてくれませんか、美羽さん」
「え?」
「美羽さんにいて欲しいんだ。仕事するとき、美羽さんの気配を感じてたいって、このところずっと思ってた。それに、近くにいたら美羽さんにいらない不安を抱かせなくて済む」
「いい……の?」
「鉋研ぎしてるときに、美羽さんがいたらなって思う。それだけで、美羽さんは俺の支えになる」
心臓が、体が、震えた。私はゆっくりと頷いた。
あの空間に私がいてもいいと言うのなら、それはどんな言葉よりも嬉しい。
「やった」
穂波くんが、顔を明るくする。
「じゃあさ、美羽さん」
つい、と耳元に降りてきた唇が囁いた。
「とりあえず、二人きりになろ。ずっと会ってなかったから、俺、もう限界」
「……ばか」
「ばかじゃないよ。美羽さんがどれだけ俺に必要なのかってところを、分かってよ」
耳輪に吐息がかかる。体の奥がそれだけで反応してしまう。
「わ、かる」
「よし、行こ?」
「もう。急かし過ぎ」
穂波くんに促されて席を立った。私は、何て単純なんだろう。もう、気持ちはすっかり不安の影を霧散していた。
「もう帰っちゃうの?」と残念そうな声を出すセシルさんと穂波くんが話している間に、私は店内をぐるりと見渡した。
オレンジ色の灯りの中に点在する家具。
つい数ヶ月前、ここは最低最悪の場所だった。もしかしたら、一生足を向けたくないと思う場所になっていたかもしれない。
だけど、ここは私と穂波くんの始まりの場所となった。辛くて悲しかったあの晩は、今は大切な思い出に変わって胸の奥にある。私はこれから、ここに来る度に幸福感で満たされるんだろう。
胸元を彩る、彼の作った物をぎゅっと握りしめた。
「美羽さん、どうかした?」
穂波くんに顔を覗き込まれて、そっと笑う。
「私、あなたに会えてよかったと思う」
僅かに目を見開いた穂波くんが、にか、と笑う。そうして、「俺も、そう思う」と言った。
指で摘まみあげて言う。私の為のガラスの靴が柔らかく光っていた。その上に、頬を伝った涙が一粒落ちた。
「ごめん、ね……。私、少しだけ、ううん、いっぱい、穂波くんの気持ち疑った。もう、だめなのかと思った。私より助けになれる人がいるなら、その人の方がいいかもって考えた」
切れ切れに言った。
「……それ、優真のこと?」
僅かの沈黙。その後のぼそりとした穂波くんの呟きに驚いて顔を向けると、「ごめん」と頭を下げられた。
「あいつに言われるまで、そんな感情持ってるなんて思わなかったんだ。俺が悪かった、ごめんなさい」
「ほ、穂波くん?」
「けど、優真にははっきり言ったから。大事な人は一人しかいないって。信じて?」
そっと顔を上げた穂波くんが、「ねえ、そのクッションの下、見て」と言った。
「下?」
小箱の中からクッションを取り出す。その下には、ネックレスと同じデザインのキーホルダーがあって、その先には鈍く光る鍵が一つ。
「一緒に、暮らしてくれませんか、美羽さん」
「え?」
「美羽さんにいて欲しいんだ。仕事するとき、美羽さんの気配を感じてたいって、このところずっと思ってた。それに、近くにいたら美羽さんにいらない不安を抱かせなくて済む」
「いい……の?」
「鉋研ぎしてるときに、美羽さんがいたらなって思う。それだけで、美羽さんは俺の支えになる」
心臓が、体が、震えた。私はゆっくりと頷いた。
あの空間に私がいてもいいと言うのなら、それはどんな言葉よりも嬉しい。
「やった」
穂波くんが、顔を明るくする。
「じゃあさ、美羽さん」
つい、と耳元に降りてきた唇が囁いた。
「とりあえず、二人きりになろ。ずっと会ってなかったから、俺、もう限界」
「……ばか」
「ばかじゃないよ。美羽さんがどれだけ俺に必要なのかってところを、分かってよ」
耳輪に吐息がかかる。体の奥がそれだけで反応してしまう。
「わ、かる」
「よし、行こ?」
「もう。急かし過ぎ」
穂波くんに促されて席を立った。私は、何て単純なんだろう。もう、気持ちはすっかり不安の影を霧散していた。
「もう帰っちゃうの?」と残念そうな声を出すセシルさんと穂波くんが話している間に、私は店内をぐるりと見渡した。
オレンジ色の灯りの中に点在する家具。
つい数ヶ月前、ここは最低最悪の場所だった。もしかしたら、一生足を向けたくないと思う場所になっていたかもしれない。
だけど、ここは私と穂波くんの始まりの場所となった。辛くて悲しかったあの晩は、今は大切な思い出に変わって胸の奥にある。私はこれから、ここに来る度に幸福感で満たされるんだろう。
胸元を彩る、彼の作った物をぎゅっと握りしめた。
「美羽さん、どうかした?」
穂波くんに顔を覗き込まれて、そっと笑う。
「私、あなたに会えてよかったと思う」
僅かに目を見開いた穂波くんが、にか、と笑う。そうして、「俺も、そう思う」と言った。