シンデレラを捕まえて
むきだしになった肩口に、穂波くんの手が触れた。
しっとり濡れた肌を撫でるように、大きな手のひらが往復する。するりと流れて二の腕に触れ、感触を楽しむようにふにふにと揉む。


「ここ、すげえ柔らかい。この感触、すき」


くちくちと耳輪の辺りに舌を這わせていた穂波くんが切なげに漏らした。吐息がかかり、体がびくりとする。


「美羽さんの肌、綺麗。ふわふわ柔らかそうで、ずっと触りたいって思ってた」


肩に戻った手が鎖骨に辿り着いた。人差し指が骨の部分を辿り、窪みを撫でる。その一々に、びくびくと反応してしまう。


「もっと、触らせて」


苦しげな囁き。二の腕を掴んだ手に力が籠められた。


「美羽さんの色んな感触、教えて」


頭がくらくらする。足が震える。彼に腰を支えられていなかったら、私はへたり込んでしまっていただろう。

穂波くんがどうして私にこんな風に迫って来るのか分からない。少し気に入っていた女の子、きっとその程度だろうと思う。

しかし、今、そんなことはあまり重要じゃなかった。

欲しがられている。
それが、今の私を揺さぶっていた。口づけも、肌を這う指先も、腰に回された腕も、押し付けられた体も、吐息一つまでもが今、私の為に動いている。
何もかもを失った私の為に、彼はここにいる。


「美羽さん」


穂波くんの目が私の瞳を捕らえる。張りつめた表情の中にある欲望を感じて、下腹部の辺りが疼いた。


「……いい、よ」


頷いていた。穂波くんの唇がそっと弧を描いた。ゆっくりと彼の顔が近づいてくる。
私はそれを、僅かに開いた唇で迎えた。
さんざん蹂躙してきた舌先が初めてのそぶりで入ってくるのを、甘噛みで受け入れる。大きな体が僅かに震えた。

舌を絡ませながら、自分に言い聞かせる。

私は今、酔ってるから。振られたばかりで、自暴自棄になってるから。だからこんな風に、簡単に籠絡した。それだけだ。

この人とはこの一晩限りかもしれない、
だけど、それでいい。GIRASOLに、二度と行かなければいい。ボンヌを辞めた今、あそこに足を向ける理由はない。

たった一晩だもん。
一晩くらい、この人の熱に頼って、甘えたって、いいよ。
誰かに慰められて夜を越したって、いいよ。一人で泣くより、多分ずっといい。


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