シンデレラを捕まえて
* 

私は砂糖で出来ているのかもしれない。
ふわふわした、綿菓子とかそういう物で構成されているに違いない。

穂波くんは私の体の至る所に唇を落とした。脇、背中、足先、ひざ裏、手の甲。
時折べろりと舐めあげられ、柔らかさを確認するように噛み付かれた。食べられているみたい、と体中に与えられる甘い感覚に身を委ねながら思った。

穂波くんは私の中の一番おいしいところを探して食べ続けているんだ。

手は肌を這い、強く揉んだり、優しく撫でたりを繰り返した。私の体は穂波くんに食べられ、もみくちゃにされていた。
それがたまらなく、気持ちよかった。食べられるって、気持ちいい。


「美羽さんの肌、いい。吸い付いてくるみたい。想像してたよりずっといい」


何度も穂波くんは言う。繰り返し言うものだから、私はだんだん、私の肌がシミ一つない、すべすべの陶器みたいに綺麗なものになった気がしてくる。


「ねえ、美羽さん」


絶えず降ってくる口付けの合間に、穂波くんが言った。


「ネックレス、してるね」


私の首元は、ネックレスがあった。木製のトップは花の形を模していて、花芯はシルバーでできている。それを指で摘まみあげて、彼は私の瞳を窺った。


「あ、これは私が自分で買った、お気に入りで……」


咄嗟に思ったのは、シルバーのリングと同じ意味合いの物だと思われたのではないかということだった。
言い訳がましく言葉を重ねてしまう。


「大学のときに……セレクトショップで一目ぼれしたの。だから、その」

「ふうん、そっか」

「うん。可愛い、でしょ?」

「……うん」


穂波くんは、信じてくれただろうか。そんなことを気にしてしまう。だって、他の男の人からの贈り物を身に着けたままこんなことできる女だとは、思われたくない。


「うん、可愛い」


くす、とぎこちなく笑って、穂波くんは再び私の体に顔を落としていった。


「美羽さんはもっと、可愛い。もっととこ可愛いとこ、俺に見せて」

「ん……」


綿飴だった私は穂波くんの手で別のモノに変えられていってるんじゃないかと思う。
彼の手の中で、私はいろんなお菓子に姿を変える。


「美羽さん」


私の顔の横に両手をつき、腕の分だけ離れた場所から穂波くんが見下ろしてくる。捕食者の目から熱情は消えることなく私を絡め盗る。
こんなに扇情的な顔をする人だった……? 蕩けた頭で思う。


「ほなみ、くん」


名前を呼んだ声は、どうしてだか酷く頼りなかった。


「ん?」


最初は怖いくらいだった力強い瞳が、私を見つめる。黒い瞳の中を窺うように、じっと見つめ返した。

この時、私の心の中に比呂もボンヌも存在していなかった。

私だけを見て、私だけを求めてくれる人が与えてくれるものだけを、見つめていた。


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