シンデレラを捕まえて
どれだけ、彼と躰を重ねていたのだろう。
それも定かじゃないほどに体を重ねて、その末に気を失うように眠りに落ちた。

目覚めたのは、私が先だった。

喉の渇きを覚えて目を開けたら、目の前に穂波くんの寝顔があった。すうすうと心地よさそうな寝息を立てている。


「うわあ! ……あー、と」


一瞬のけぞるほどに驚いたけれど、すぐに思い出す。どうして自分が裸で穂波くんとベッドにいるのか。

そうだそうだ、そうだった、と口の中で呟く。
彼を起こさないようにそろそろと身を離し、ベッドから降りた。

体の節々が痛む。腰には鈍い痛みがあって、足がふらついた。

のろのろと冷蔵庫に向かい、お茶のペットボトルを取った。音をたてないようにそっと開けて口をつける。冷たいお茶は渇いた喉を潤してくれて、半分寝ぼけたままだった頭を冷やしてくれた。
はっきりしてくる頭が目まぐるしく、数時間前までの出来事をプレイバックしてくれる。あんな姿こんな痴態をそれはもう、デリートしたいくらい鮮やかに。
ペットボトルを両手で抱えたまま(すっぱだかで)、私はその場にへたり込んだ。


「どうしよ……」


思わず、呟いていた。すっかり血の気が引いていた。
私、なんてことしちゃったんだろう!
辛かった、悲しかった、心のやり場がなかった。だけど!
与えられるまま、望まれるまま、こんなことしてよかったの!?
いや、よくない。全然、よくない。

ぜんっぜん、よくない!


「あ、あわ、わああ」


成す術もなく床に這いつくばり、小さな小さな唸り声をあげた。穂波くんを起こしてはいけないというのは、こんなバカな私でも分かっていた。

……帰ろう。

思いついた最善の策は、それしかなかった。
穂波くんが起きる前に、帰ってしまおう。
ここにいてはいけない。目覚めた穂波くんと、何事もなくブランチを共にする勇気なんて私には無い。どんな言葉を交わすっていうの。

慎重に散らばった衣服を拾い上げ、急いで身に着けた。
一度だけ、穂波くんが寝返りを打ったときはひやひやしたけれど、彼は幸いにも目覚めることはなかった。

私は最低限の身づくろいをして、文字通り逃げるようにして、部屋を後にした。



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