シンデレラを捕まえて
穂波くんは、私の首元を飾る木製の花を摘み上げた。


「俺の両親は、じいちゃんみたいな生き方はもう時代的に難しいって悲観的な人たちなんだ。まあ、安く手に入る量産家具が溢れてる時代だからね、今は。確かに、大もうけできるような職種じゃない。じいちゃんの弟子だって年々減って行って、俺が高校生の時には二人くらいしかいなかった」


穂波くんは続けた。


「家具職人としてやっていきたかったけど、不安はやっぱり付きまとった。自分の腕に自信も持てなかったし。だから、願掛けしたんだ。真剣に作ったものがもし売れたら、木を扱うことを生業にしていこう、って。だけど、家具作りはまだじいちゃんに許されていなくてさ。それなら小物を作ろう。目新しい、独自性のある物だ、って思ったわけ」


穂波くんが作り上げたのが、小さなペンダントトップだった。花の形に加工した木に、シルバーの花芯を組み合わせた小さなもの。
それは△△町のセレクトショップに委託販売をしてもらうことになったという。


「毎日のように通って、行けない日は電話で確認してた。期限は一ヶ月って決めてて、毎日どきどきして過ごした。期限まであと五日、って日の事だった。ショップの店長が電話くれたんだ。売れたよ、って」


高校生か大学生くらいの可愛い女の子が買って行ってくれたよ、そう聞いたとき、穂波くんは自身の行くべき道を決めたそうだ。


「どんな子が買ってくれたのか、ずっと気になってた。忘れたことなかったよ。だから、GIRASOLで美羽さんの首元に光るものを見つけたとき、ぞくぞくした。うそだろ、俺の作ったものだなんて、あるはずないよな、って」


しゃらりとシルバーのチェーンが小さな音を立てる。


「だけど、これは俺が作ったものだ。見間違えたりしない。これを買って、まだ付けてくれてる。それだけで、美羽さんは俺の特別だよ」


ふ、っと穂波くんの顔が降りた。私の首元の小さな花に、唇を落としたのが分かった。吐息が肌にかかる。髪が私の顎先を擽る。


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