シンデレラを捕まえて
「――ん……」
寝返りを打てば、背後から抱きしめられる感覚があった。
重たい瞼をどうにかこじ開けて胸元を見る。浅黒い、筋肉質な腕があった。
「ああ、そっか……」
小さく呟いて、そっと後ろを振り返る。あどけない寝顔が近くにあった。
よく寝てる。
声に出さず呟く。
寝顔から、体に回る腕に視線を移し、そっと触れてみた。筋肉のついた前腕から手首、手の甲から指先、短く切り揃えられた爪先まで。
無意識に微笑んでいる自分に気が付いた。
今、私は穂波くんを愛おしいと思っている。
それは、体を重ねたから? 情が湧いてしまった?
違うと、と思う。触れるだけで、熱を感じられるだけで胸の中が温かくなるのは、そんなものからじゃない。
全身で、私の事を知ろうとしてくれる、私を見ようとしてくれる。
そして私にも色んな面を見せてくれる。もっと知りたいと、思ってしまう。
そんな人をどう思うかなんて言えばきっと、好きっていう、そういう感情でしょう?
私は、穂波くんのことを……。
自分の抱えた想いを確認すれば、今すぐにでも振り返って抱きつきたい衝動に駆られた。
けれど、心地よさ気に眠っている穂波くんを起こしてしまいそうで、堪えた。
水でも飲んで落ち着こう、と名残惜しさを感じながらそろそろと腕の中から抜け出した。
冷えた水を飲み、一息つく。ふと時間が気になって、床に転がったバッグから携帯を取り出した。画面をみれば、新着メールの知らせがある。何気なく開くと、それは比呂からのメールだった。
送別会の日から一度も連絡のなかった比呂が、今更何の用があると言うんだろう。
訝しく思いながら開いてみる。
『美羽に会いたい』
最初の一文を読んだ瞬間、心臓がギリ、と痛んだ。
メールには、薫子さんの妊娠が狂言だったこと、それが理由で別れたこと、そしてヨリを戻したいということが書かれていた。
「なにを、そんなバカなこと……」
身勝手もいいところだ。こんなメールで私の心が動くと思っているの?
しかし、メールの最後の一文を見つめてしまう。
『助けてくれよ、辛いんだ』
自信家でプライドの高い比呂からのメールとは思えない、弱音。
比呂は今、傷ついている。
二股をかけ、捨てようとした私に縋りつきたくなるほど、弱っている。それくらいのこと、分かる。
だけどごめん、比呂。そんなあなたを支えてあげたいと、もう私は思えない。
送別会の晩で、もう全部終わってしまった。薫子さんの横で、私の事を見ようともしてくれなかったあの横顔を思い出すと、寂しくなるばかりで温かな感情は湧いてこない。
少しだけ躊躇ったあと、メールを消去した。ふ、と息を吐く。
寝返りを打てば、背後から抱きしめられる感覚があった。
重たい瞼をどうにかこじ開けて胸元を見る。浅黒い、筋肉質な腕があった。
「ああ、そっか……」
小さく呟いて、そっと後ろを振り返る。あどけない寝顔が近くにあった。
よく寝てる。
声に出さず呟く。
寝顔から、体に回る腕に視線を移し、そっと触れてみた。筋肉のついた前腕から手首、手の甲から指先、短く切り揃えられた爪先まで。
無意識に微笑んでいる自分に気が付いた。
今、私は穂波くんを愛おしいと思っている。
それは、体を重ねたから? 情が湧いてしまった?
違うと、と思う。触れるだけで、熱を感じられるだけで胸の中が温かくなるのは、そんなものからじゃない。
全身で、私の事を知ろうとしてくれる、私を見ようとしてくれる。
そして私にも色んな面を見せてくれる。もっと知りたいと、思ってしまう。
そんな人をどう思うかなんて言えばきっと、好きっていう、そういう感情でしょう?
私は、穂波くんのことを……。
自分の抱えた想いを確認すれば、今すぐにでも振り返って抱きつきたい衝動に駆られた。
けれど、心地よさ気に眠っている穂波くんを起こしてしまいそうで、堪えた。
水でも飲んで落ち着こう、と名残惜しさを感じながらそろそろと腕の中から抜け出した。
冷えた水を飲み、一息つく。ふと時間が気になって、床に転がったバッグから携帯を取り出した。画面をみれば、新着メールの知らせがある。何気なく開くと、それは比呂からのメールだった。
送別会の日から一度も連絡のなかった比呂が、今更何の用があると言うんだろう。
訝しく思いながら開いてみる。
『美羽に会いたい』
最初の一文を読んだ瞬間、心臓がギリ、と痛んだ。
メールには、薫子さんの妊娠が狂言だったこと、それが理由で別れたこと、そしてヨリを戻したいということが書かれていた。
「なにを、そんなバカなこと……」
身勝手もいいところだ。こんなメールで私の心が動くと思っているの?
しかし、メールの最後の一文を見つめてしまう。
『助けてくれよ、辛いんだ』
自信家でプライドの高い比呂からのメールとは思えない、弱音。
比呂は今、傷ついている。
二股をかけ、捨てようとした私に縋りつきたくなるほど、弱っている。それくらいのこと、分かる。
だけどごめん、比呂。そんなあなたを支えてあげたいと、もう私は思えない。
送別会の晩で、もう全部終わってしまった。薫子さんの横で、私の事を見ようともしてくれなかったあの横顔を思い出すと、寂しくなるばかりで温かな感情は湧いてこない。
少しだけ躊躇ったあと、メールを消去した。ふ、と息を吐く。