シンデレラを捕まえて
「ねえ、美羽ちゃん」

「はい?」

「栗原くんとヨリを戻すことは、できないの?」

「……え?」


椋田さんは真剣な顔つきで、重ねて訊いてきた。


「栗原くんのこと、好きだったでしょう? 栗原くん、今すごく苦しんでるの。それを、美羽ちゃんが傍で支えてあげることはできない?」

「な、なにを……」

「穂波くんとのこと、あれ、嘘でしょう? 美羽ちゃんは二股をかけられるような器用な性格じゃないもの。あれは、そうね。あなたの事が好きな穂波くんがあなたを庇うためについた嘘、ってところ」


返事に戸惑う私に、椋田さんは「図星ね」と確信めいた口ぶりで言った。
薄紫色のジェルネイルが乗った指先が伸びてきて、私の手に触れる。私の手をきゅっと握って、椋田さんは続けた。


「お願いよ。栗原くんを助けてあげて。嫌いで別れた相手じゃないでしょ?」

「む、椋田さん……」

「堕ちていく栗原くんなんか、見たくないでしょ?」


ゆっくりと、頷いた。それは、その通りだ。比呂が追い詰められている姿なんて見たくない。
椋田さんの顔がぱっと輝いた。


「じゃあ、美羽ちゃん」

「比呂のそんな姿、見たくないです。でも、私、比呂とはもう元に戻る気は、ありません」

「どうして!?」

「私、好きな人がいます」


そっと、椋田さんの手の下から自分の手を引き抜いた。


「比呂の傍には、いられません」

「誰? 穂波くん?」


ぱっと思い浮かぶ顔。にか、と笑う快活そうな顔は、胸の奥を温かくしてくれる。
彼が私の事をもう好きでいないとしても、私は好き。嫌いになることも、他の誰かの元に行くこともできない。


「はい」


頷くと、椋田さんは「よくないわ、それ」と顔を歪めた。


「だって、あの子が美羽ちゃんの何を知ってるって言うの? ここで顔を合わせていた程度でしょ。あの子からしてみたら、ちょっと好みの可愛い子、位の認識よ?」

「それは……」


椋田さんの言葉に声が詰まる。

私が穂波くんのことを殆ど知らなかったのと同じで、穂波くんだって、私の事を殆ど知らない。
彼と私を引き合わせたのは、たった一つのネックレスだけだ。


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