シンデレラを捕まえて
「付き合いの長い栗原くんのほうがよっぽど美羽ちゃんの事分かってくれていると思うわ。そうでしょう?」
「でも、椋田さん。私は……」
「私ね、彼の送別会の時のやり口が無茶苦茶だなってずっと思ってたの。事情も知らずにあんなことをいきなりやってしまうなんて」
「……事情を知っていたあなたたちが、美羽ちゃんに何をしました?」
言い募る椋田さんの言葉を遮るように、ふいに低い男性の声が入る。驚いてみれば、横にセシルさんが立っていた。
「あの場所で彼女を助けようとしていたのは、穂波一人でした。あなたたちは傍観するという形の暴力を彼女に振るっただけではないですか?」
「そ、そんなつもりはなかったわ」
椋田さんの顔が強張る。
「事情を良く知らない穂波のやり口が不味かったと言うのなら、事情を知っているあなたはさぞかしスマートな助けができたのでしょうね? でも、それをしなかったのですから、穂波を責める権利はありませんよ」
「っ! なんで店員が話に入ってくるの? どこかに行っててくれる?」
「穂波と美羽ちゃんの友人として口を挟んでます」
しれっとそう言って、セシルさんは私の頭にぽんと手を置いた。
「大事な友人の大事な子なんです。彼女を幸せに出来ない男の元にそうやすやすと行かせませんよ。
知っていますよ? ヘアサロン部の子たちに泣きつかれて、栗原くんを復帰させてみると胸を張ったあなたを。あなたは自分の責任を全うしたいがために、美羽ちゃんを利用しようとしてる。彼女の気持ちは、いつだって二の次だ」
「な、なんでそんなこと……」
「この周辺の店には知り合いが多いんですよ。店を変えたって、そのくらいの情報は入ります」
それは真実だったらしい。顔を真っ赤にした椋田さんは私の手を再び強く握った。
「ねえ、美羽ちゃん。あなたの本心はどうなの? それでいいの?」
「椋田さん……」
「好きっていう気持ちが残っていたら、あなただって幸せになれる話でしょう? ね?」
「すみま、せん……」
深く頭を下げた。そのまま続ける。
「すみません。無理です。私はもう、比呂の傍で頑張りたいって思えないんです」
す、と手が離れた。
「……そう」
「すみません。気にかけて頂いたのに……」
「もう、いいわ。帰るわね」
ガタンと音がして、立ち上がる気配がした。
「……これでも本当に、あなたのことも心配してたのよ。今なら栗原くんと絶対幸せになれるって、本気で思ってたの。それだけは、信じてね」
「……はい」
カツカツとヒールの音が遠ざかる。椋田さんは会計を済ませて、こちらを振り返ることなく出て行ってしまった。
「でも、椋田さん。私は……」
「私ね、彼の送別会の時のやり口が無茶苦茶だなってずっと思ってたの。事情も知らずにあんなことをいきなりやってしまうなんて」
「……事情を知っていたあなたたちが、美羽ちゃんに何をしました?」
言い募る椋田さんの言葉を遮るように、ふいに低い男性の声が入る。驚いてみれば、横にセシルさんが立っていた。
「あの場所で彼女を助けようとしていたのは、穂波一人でした。あなたたちは傍観するという形の暴力を彼女に振るっただけではないですか?」
「そ、そんなつもりはなかったわ」
椋田さんの顔が強張る。
「事情を良く知らない穂波のやり口が不味かったと言うのなら、事情を知っているあなたはさぞかしスマートな助けができたのでしょうね? でも、それをしなかったのですから、穂波を責める権利はありませんよ」
「っ! なんで店員が話に入ってくるの? どこかに行っててくれる?」
「穂波と美羽ちゃんの友人として口を挟んでます」
しれっとそう言って、セシルさんは私の頭にぽんと手を置いた。
「大事な友人の大事な子なんです。彼女を幸せに出来ない男の元にそうやすやすと行かせませんよ。
知っていますよ? ヘアサロン部の子たちに泣きつかれて、栗原くんを復帰させてみると胸を張ったあなたを。あなたは自分の責任を全うしたいがために、美羽ちゃんを利用しようとしてる。彼女の気持ちは、いつだって二の次だ」
「な、なんでそんなこと……」
「この周辺の店には知り合いが多いんですよ。店を変えたって、そのくらいの情報は入ります」
それは真実だったらしい。顔を真っ赤にした椋田さんは私の手を再び強く握った。
「ねえ、美羽ちゃん。あなたの本心はどうなの? それでいいの?」
「椋田さん……」
「好きっていう気持ちが残っていたら、あなただって幸せになれる話でしょう? ね?」
「すみま、せん……」
深く頭を下げた。そのまま続ける。
「すみません。無理です。私はもう、比呂の傍で頑張りたいって思えないんです」
す、と手が離れた。
「……そう」
「すみません。気にかけて頂いたのに……」
「もう、いいわ。帰るわね」
ガタンと音がして、立ち上がる気配がした。
「……これでも本当に、あなたのことも心配してたのよ。今なら栗原くんと絶対幸せになれるって、本気で思ってたの。それだけは、信じてね」
「……はい」
カツカツとヒールの音が遠ざかる。椋田さんは会計を済ませて、こちらを振り返ることなく出て行ってしまった。