シンデレラを捕まえて
「……ありがとうございました、セシルさん」


脇にそっと立ってくれている人に呟いた。


「またもや出しゃばりました。ごめんなさい」


セシルさんが頭を下げるのが分かった。その神妙な物言いに、くすりと笑う。


「そんなことないです。ここがセシルさんのお店でよかった」


言いながら、ため息をついた。


「ねえ、セシルさん。比呂が荒れてるとかって話は耳に入ってたんですか?」

「そうだね、ボンヌのスタッフさんは本当によく、ここを利用してくれるから」


ひょいと肩を竦めて、セシルさんは私に言った。


「まあ、彼のところに戻る気がないのなら、今日の事は忘れなさい」

「は、い……」


バッグの中にある携帯が小さく震えた。メールの着信を知らせるものだろう、数回羽音のような音を立てたのち、止まった。

また、比呂からかな……。

私は、椋田さんに比呂からのメールをどう対応すればいいのか相談できたらいいなと考えていた。
椋田さんに話してもいいものなのか、探っていた。
けれど、椋田さんは相談できるような考えではなかった。

どうしたらいいんだろう。状況を知ることができたとはいえ、事態は何一つ好転していない。


「美羽ちゃん、どうかした?」


ひょいとセシルさんに顔を覗き込まれて、曖昧に笑った。


「いえ。別に」


セシルさんには本当にお世話になり通しだ。これ以上問題を持ち込めない。


「ええと、私ももう帰ります。ごちそうさまでした」


バッグを持って、席を立った。ドアへ向かう。


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