シンデレラを捕まえて
「うーん、やっぱり様子がおかしいな。ねえ、美羽ちゃん。栗原くんに何かされてたり、しないよね?」

「え、あ、大丈夫です」

「大丈夫……ってことは何かされてるってことだね」


セシルさんが肩に手をかけた。


「何かされてるの? 相談してよ」

「あ、いえ。メールが少し来る程度なので、問題ないですよ」

「俺が無理だっていうのなら、他の誰かに相談してる? 穂波とか」

「穂波くん!? まさか!」


相談なんてできるはずないよ。驚いた私だったが、もっと驚いたのがセシルさんのようだった。


「まさか、ってなんで。あいつは美羽ちゃんのためならなんでもやるよ」

「いや、それは、ええと、その」


何て言えばいいんだろう。穂波くんとはもう距離があるんです、とか?


「あ! セシルさん、あの、このことは絶対穂波くんには言わないでください!」


今更問題を持ち込まれたって、迷惑になるだけだ。
セシルさんに慌てて言った、その時だった。


「俺に何を言わないでって?」


背中で冷え切った声がした。

ばっと振り返ると、そこには眉根に深い皺を刻んだ穂波くんが立っていた。
いつからいたの!? 全然気が付かなかった。予想だにしなかったことに、思わず固まってしまう。


「なんでこんなトコに? 常盤さんと随分前に帰った、よね?」

「あ、う、うん……」


頷くと、穂波くんは店内をつい、と見渡した。


「誰かと一緒?」

「あー、いや、その」

「一人だよ。仕事を紹介したお礼に来てくれたんだ」


言いよどむ私の後ろで、セシルさんがフォローを入れてくれた。


「ふうん」


鼻を鳴らして、穂波くんが私を見下ろした。怒っているような、苛立っているような視線に身を竦ませる。


「で? 俺に何を言わないでって話してたの、美羽さん」

「な、何でもない、です」


いつもは明るい声が、低い。顔を直視できなくて俯いた。
嫌な沈黙が続いた。


「……ても、いいだろ」


ぼそりとした彼の呟きは、上手く聞き取れなかった。


「え?」

「なんでもない。もう帰るんでしょ。はい」


す、と横に身をずらした穂波くんは、ドアを開けてくれた。


「じゃあね」

「あ、うん……。じゃあ、セシルさんも、失礼します」


穂波くんの前を通って外に出た。
彼は何も言わず、私が店の外に出ると同時にドアは閉まった。


< 63 / 128 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop