シンデレラを捕まえて
* * *

アパートのドアの前に、比呂の吸っている煙草と同じ銘柄の吸殻が幾つも落ちていた。

また、来てたんだ……。

思わず周囲を見渡して、急いで室内に入った。鍵をかけ、息を吐く。

メールが減ったと思ったら、比呂は私の部屋までやって来るようになった。今日でもう三度目だ。
GIRASOLで椋田さんと話をしてから十日。たった十日。比呂は日を追うごとに悪化していっている。

椋田さんは比呂にきちんとフォローを入れてあげているだろうか。総合チーフとして、部下を助けてやって欲しいと思う。

私は、どうしたらいいんだろう。メールで何度も拒否の意を伝えたけれど、それは全く効果がない。比呂のメールの内容は一方的なものになり、私の意思など全然考えていない様にも思える。

室内の灯りをつけ、キッチンへ向かう。コップに並々ついだ水をぐっと飲み干したところで、チャイムが鳴った。
びくりと震える。もしかして。


『美羽。いるんだろ?』


ドアの向こうから響く声は、比呂のものだった。
これまで、運が良かったのか比呂と接触したことは無かった。


「ど、どうしよう」


居留守を使う? でもきっと比呂は、部屋の明かりがついたのを確認してからここに来ている。


『美羽。開けて』


控えめにドアがノックされる。弱々しい声は限りなく小さい。


『頼むよ。美羽』


ほとほとと鳴るドア。懇願する声。
開ける? ダメ、それはきっとよくない。

キッチンで固まったまま動けない。身じろぎ一つ出来なかった。


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