シンデレラを捕まえて
冷たいお茶でも出してあげよう。
キッチンで冷茶の支度をして、応接スペースに向かった。


「おお、美羽ちゃん。ごめんね」

「いえ。どうぞ」


二人の前にグラスを置き、戻ろうとする。


「美羽さん、足、どうしたの?」


ふいに、穂波くんに声を掛けられた。


「あ。ちょっと、怪我しちゃって」

「ガラスで切ったんだって。痛々しいよねえ。ごめんね、歩くのもきついだろうにお茶の支度させちゃって」

「ふうん。大丈夫なの?」

「平気。大丈夫ですよ、社長」


二人に笑ってみせて、自分のデスクに戻った。


「またため息ついてる。痛むんじゃないの。早退する? なんなら送って行ってあげようか」


安達さんが声をかけてくれたのを、「ご心配には及びませんよ」と笑って答えた。
ため息をついているとしたら、それは比呂の事を考えているからに他ならない。どうしたらいいのか、どうすればいいのか、頭の中はそればかりだ。

そうこうしている間に、終業時間になってしまった。
怪我をしているのだから早く帰れと事務所を追い出された。

気遣いはありがたいのだけれど、今日に限ってはもう少し会社にいさせてほしかったなと思う。

のろのろと駅前まで歩いて、コインロッカーに入れていた荷物を引っ張り出す。数日分の着替えが入ったバッグを抱えて、ため息をついた。

明日はめぐる、明後日は真緒が泊めてくれるって言ってくれた。
だけど、今晩だけはみんな都合が悪かったのだ。

それならビジネスホテル、と思ったのだけれど、どこも満室状態。自分の部屋に帰るしかない、のかなあ。
ネットカフェとかカプセルホテルとかあたってみようかなあ。ぼんやりと考えながら歩いていると、肩を掴まれた。


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