シンデレラを捕まえて
「俺の気持ちすら、信用できないの?」


しかし発した声は弱くて、悲しそうだった。


「そんなこと、ない。ただ、私、あの時メモ残して、黙って帰って、それで……。だからもう愛想尽かされちゃったっていうか、冷められたっていうか」

「冷めたのは美羽さんでしょ?」

「違う!」


思わず大きな声を出してしまう。穂波くんが驚いたように目を見開いた。


「そんなの、違うもん! 私は、本当に、穂波くんが私の事を……」


私の事を好きでいてくれるのか、不安だったんだ。
最後まで言えずに、言葉はどんどん小さくなっていって、俯いた。


「簡単に信じられないのも、分かるよ」


穂波くんは続けた。


「それに、美羽さんに信じさせられない俺が悪い。今まで美羽さんの優しさに付け込むような真似しかしてないから、それもよくなかった。ごめん」


頭に、大きな手のひらが乗った。躊躇いがちに撫でてくれる。


「これだけは、信じて。美羽さんに持ってるのは、簡単に切り捨てられるような感情じゃない。だから、俺にもう一回チャンスくれない?」


穂波くんの穏やかな声が体に滲み込む。


「教えて? 何があったの?」

「…………」

「美羽さん」


優しく名前を呼ばれる。視界が滲んだ。

もうだめ。
張りつめたものが、切れちゃう。


「……ないの」

「なに、美羽さん?」

「行くとこ、ないの。アパートに戻ったら、比呂が来ちゃうかも、しれなくて……」

怖いの。
ようやく、弱音を吐き出せた。誰にも言えなかった不安を口にすると、頬を伝った涙が顎先から落ちていった。ず、と鼻を啜る。
と、頬を拭っていた手を穂波くんに掴まれた。引き寄せられたかと思うと、ひょいと抱え上げられる。


「ほ、穂波くん!?」


逞しい腕は、私一人の重さなど厭わないのか、彼はバッグも持っているというのに、すたすたと歩きだした。


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