シンデレラを捕まえて
炊き立てのご飯に長ネギと豆腐の味噌汁。鯵の味醂干しにキュウリの浅漬け。それらをテーブルに並べて、「よし」と呟いた。
勝手口に置いてある男性用の大きなサンダルを引っ掛け、そのまま外に出る。庭を通り抜け、工房を覗き込んだ。
シュ、シュ、と規則正しい音が響く。
朝日の差し込む窓際で、穂波くんが鉋研ぎをしていた。
沢山の鉋の手入れが、穂波くんの朝の日課だ。ここに来てから四日だけれど、穂波くんは一日も欠かさずに鉋に触れていた。
日にかざした刃先を真剣な瞳で眺め、また研ぐ。しばらく繰り返して、砥石にぱしゃりと水をかける。刃を確認して、満足げに頷く。
次の刃に取り掛かろうとしていた穂波くんが出入り口に立っている私に気が付いて、笑った。
「おはよう、美羽さん」
「おはよ」
仕事の最中の穂波くんは、どこか近寄りがたい。仕事にそれだけ身を入れていると言うことなのだろう。犯してはいけない空気を醸し出している。
そんな様子を見るのは、私は好きみたいだ。刃先を見つめる黒い瞳も、きゅっと引き結ばれた口元も、見とれてしまう。
「ゴハン、できたの?」
「あ、うん。そうなの」
朝食の担当は、私になった。穂波くんが何もしなくていいよ、というのをゴネて、無理やり勝ち取った家事である。
夕食は、穂波くん。驚いたことに、穂波くんの作るご飯は、すっごく美味しいのだ。私の女としての立場が危ういのではないかと言うくらいに完璧。特に和食を作らせたら、私は自分の料理をそっと背中に隠すしかないと思うほどだ。
もっと料理に熱心になっていればよかった。
一人暮らしと言う状況に甘えて簡単な料理しか覚えていなかった自分をこっそり恥じた私は、とりあえず和食入門の本を買った。
しかし穂波くんは、そんな私の簡単料理でも美味しいと言って食べてくれる。
「じゃあ、行こうか。早くしないと、美羽さんが間に合わなくなっちゃう」
「ん。ありがと」
穂波くんは、最初に言った通り、毎日送り迎えをしてくれている。ここからユベデザインまで片道五十分ほどかかるので、近くの駅まででいいからと言ったのだが、穂波くんは送ると言って聞かない。
勝手口に置いてある男性用の大きなサンダルを引っ掛け、そのまま外に出る。庭を通り抜け、工房を覗き込んだ。
シュ、シュ、と規則正しい音が響く。
朝日の差し込む窓際で、穂波くんが鉋研ぎをしていた。
沢山の鉋の手入れが、穂波くんの朝の日課だ。ここに来てから四日だけれど、穂波くんは一日も欠かさずに鉋に触れていた。
日にかざした刃先を真剣な瞳で眺め、また研ぐ。しばらく繰り返して、砥石にぱしゃりと水をかける。刃を確認して、満足げに頷く。
次の刃に取り掛かろうとしていた穂波くんが出入り口に立っている私に気が付いて、笑った。
「おはよう、美羽さん」
「おはよ」
仕事の最中の穂波くんは、どこか近寄りがたい。仕事にそれだけ身を入れていると言うことなのだろう。犯してはいけない空気を醸し出している。
そんな様子を見るのは、私は好きみたいだ。刃先を見つめる黒い瞳も、きゅっと引き結ばれた口元も、見とれてしまう。
「ゴハン、できたの?」
「あ、うん。そうなの」
朝食の担当は、私になった。穂波くんが何もしなくていいよ、というのをゴネて、無理やり勝ち取った家事である。
夕食は、穂波くん。驚いたことに、穂波くんの作るご飯は、すっごく美味しいのだ。私の女としての立場が危ういのではないかと言うくらいに完璧。特に和食を作らせたら、私は自分の料理をそっと背中に隠すしかないと思うほどだ。
もっと料理に熱心になっていればよかった。
一人暮らしと言う状況に甘えて簡単な料理しか覚えていなかった自分をこっそり恥じた私は、とりあえず和食入門の本を買った。
しかし穂波くんは、そんな私の簡単料理でも美味しいと言って食べてくれる。
「じゃあ、行こうか。早くしないと、美羽さんが間に合わなくなっちゃう」
「ん。ありがと」
穂波くんは、最初に言った通り、毎日送り迎えをしてくれている。ここからユベデザインまで片道五十分ほどかかるので、近くの駅まででいいからと言ったのだが、穂波くんは送ると言って聞かない。