シンデレラを捕まえて
アパートの大家さんから電話連絡が来たのは、昼休みのことだった。


「高梨さんの部屋の前に様子のおかしい男性が毎日のように立ってるっていう苦情が来てましてね。お知り合いですか?」

「あ、いえ、その……」


比呂だ。背筋がすっと冷える。
やっぱりあれからも来ていたんだ。


「お知り合いではないんですね? でしたら、警察に相談しようと思うんですが。高梨さんも怖いでしょう?」


警察……。それは。


「し、知り合い、です。その、喧嘩をして、それで……。あの、注意しますので、今回はその」


思わずそう言っていた。比呂をこれ以上追い詰めたくはなかった。
大家さんは不満げに鼻を鳴らして、アパートの風紀を乱すような真似はしないでくれと何度も念押しをして、電話を切った。
ツー、ツー、と規則的な音を聞きながら、ため息をつく。

穂波くんの家にいるから安心だとはいえ、いつまでもお世話になるわけにもいかない。いずれはアパートに戻らなくてはいけないのだ。
比呂とは一度、直接会って話をするしかないのかもしれない。
でも、それできちんとカタがつくのだろうか。逃げていればいるほど、比呂への恐怖が増していく。これじゃいけないと思ってはいるけれど……。

比呂からのメールを呼び出し、返信画面にする。

『私はもう比呂のところには戻れません。本当にごめんなさい。だから、お願い。以前のような比呂に戻って下さい』

送信する。返信は、夕方になっても来なかった。
重い気持ちを抱えて退社した。


人ごみの中電車に揺られ、△△駅に向かう。あと一駅と言うところで携帯のバイブが震えた。
駅に到着してホームで確認すれば、それは穂波くんからだった。駅舎の写メと共に、『待ってるよー』という文面。
思わず微笑んでしまっている自分がいた。重かった心が持ち上がる。

『ついたよ』

そう送信して、改札に向かった。



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