シンデレラを捕まえて
* * *


朝からうだるような暑さだった。空にはむくむくと入道雲が広がり、沢山の蝉の声がわんわんと木霊している。
ビル群に住まう蝉が小さな喧嘩をしているのだとしたら、こちらの蝉たちはさながら戦争真っ最中だ。

工房の隅っこの、日陰のところに丸椅子を置いて、私はそこに座ってふたりの作業を見学していた。
私の足元には、井戸水を張った大きな盥が置いてある。その中には穂波くんが朝から氷屋さんで買ってきた板氷がぷかぷか浮き、スポーツ飲料やお茶のペットボトルと丸のままのスイカが一緒に泳いでいる。二人の熱中症対策だ。

工房の中は午前中だと言うのにもう暑くて、何もしていない私ですら、こめかみから汗が流れ落ちた。
穂波くんも大塚さんも、首にかけたタオルで汗を拭き拭き作業している。二人ともシャツの背中がじっとり濡れていた。

穂波くんは木材から切り出したパーツを鉋がけしているところだった。
私の目から見てさらさらに見える表面を何度も撫で、鉋で削っていく。向こうが透けて見えるくらい薄い木の膜がひらひらと舞った。

何度も何度も木肌を撫でる。細かく削って、確認する作業を繰り返す。

鉋をかけ終われば、サンドペーパーに持ち替えて丁寧にこすり上げる。

全体を何度も撫で、穂波くんはようやく納得したらしい。うん、と小さく頷いて別のパーツに持ち替えた。

木肌を確認しながら鉋台を取る。鉋身(刃のこと)を取り、鉋台にセットする。コンコンと木槌で刃を台に叩き込み、それを目の高さに持っていく。刃の角度を何度も確かめてから、ようやく木肌に添えた。シュ、と動かせば木の表面が柔らかく削られていく。

私はその動きをじっと眺めていた。

鉋研ぎの時と同じ、その静謐な作業の流れは見ていて心地よい。
真っ直ぐに対象を見つめている瞳はどこまでも真摯だ。穂波くんの視線の力強さはきっと、こんな風にものを見ることを当然としてきた人だからなんだと思う。





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