シンデレラを捕まえて
「穂波。パーツどり終わったぞ。ベルトサンダーかけとくな」


電動の帯鋸の前でずっと木材の切断をしていた大塚さんが汗を拭きながら言った。脇には、椅子を構成するパーツが幾つも詰まれていた。


「さすがセンセ、早いね! 今日中に全部の枘組み(ほぞぐみ)加工が終わりそうじゃん」

「おまえ、老体を酷使すんなよ」


やれやれ、と肩を竦めた大塚さんが、私の方を向いた。


「美羽ちゃん、お茶貰えるー?」

「あ、はい! 穂波くんは?」

「もらうー。おれスポーツ飲料ね」

「はーい。それと、これ」


冷やしていたおしぼりを一緒に渡す。


「首回りを拭くと気持ちいいよ」

「ありがとー」


二人は少しの休憩時間を取って、再び作業に戻った。
さて、そろそろ私もおひるごはんの支度をしなくちゃ、と工房を後にした。


おにぎりの具は焼き鮭に昆布の佃煮、梅干し。厚焼き玉子と豚の生姜焼き、それと茄子とキュウリの浅漬け。
縁側にそれらを並べ終えた頃、正午を告げるサイレンが遠くから聞こえた。


「おひるですよー!」


工房に向かって声をかける。「おー」と穂波くんの声が聞こえた。
少しして、二人が工房から出てくる。


「あっちー。汗だく」


言いながら、穂波くんはおもむろに着ていたシャツを脱いだ。そのまま縁側の脇に設置された水道に向かい、頭から水を被る。


「あー、きもちいー」


穂波くんの家は上水道ではなく井戸水を使っている。こんな季節だと言うのに、蛇口から流れる水は驚くほど冷たい。汗だくの彼には、さぞかし気持ちいいことだろう。


「ごめん、美羽さん。タオル取ってくれない?」


前髪からぽたぽたと水を滴らせながら、穂波くんが顔を上げた。


「……へ? あ、ああ、うん!」


むき出しになった、引き締まった上半身に瞳を奪われていた。
暗がりでしか見たことのなかった胸元や背中は、日の光の下が驚くほど似合う。筋肉を纏った二の腕も、引き締まった背筋も、眩しいくらいだった。

そして、ついと見上げられた瞳が私をはっとさせる。

見惚れてしまっていたことに羞恥を覚えつつ、慌ててタオルを取りに走った。


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