シンデレラを捕まえて
「――うまかったー。満腹!」
多めに作ったつもりだったのに、用意したものはきれいさっぱりなくなってしまった。
冷茶をきゅっと飲んで、穂波くんは私に笑いかけた。
「ありがとね、美羽さん。午後も頑張れる」
「いえいえ。私も、完食して貰えて嬉しい。大塚さん、お茶のおかわりは如何ですか?」
「じゃあ頂こうかなあ」
開放的な縁側は、そよそよと風が流れ込んできて心地いい。三人で並んで、入道雲の広がる空を眺めた。
「穂波がようやく身を固めるのか」
お茶を飲みながら、大塚さんがぼそりと呟いた。それを聞いた穂波くんがぶほ、とお茶を吹きだす。
「何言ってるの、センセ」
「ここに来て美羽ちゃんを見た時はびっくりした。お前ももう所帯を持つ年齢なんだなあ、ってなあ」
大塚さんはびっくりしてフリーズしてしまった私の方を向いて、ニコニコと笑った。
「職人の奥さんってのは苦労も多いけど、どうか支えてやってね」
「あ、いや、ええと、その」
「センセ、センセ、それ早い!」
頬を赤らめた穂波くんが慌てて言う。私の顔も、大塚さんの言葉の内容に今更反応して赤くなっていた。大塚さんはそんな私と穂波くんを見比べて「あ、まだか」と言った。
「あれだな、口説いてる最中ってことだな、穂波」
「だから! ああもう、言葉選べよ、教師のくせに!」
穂波くんが言うと、大塚さんは大きな声で笑った。
私に向かって話し始める。
「美羽ちゃん、こいつはいい奴だよ。高校の時からもう、自分の行き先を決めてた。建築科に来たのも、家具職人になりたいって夢のためでね」
建築科では工具の使い方、設計図の描き方を学ぶことができる。それを早くから学んで身に着けるのは大事なことであるらしい。
「電気の勉強もしていてね。まあ、配電関係も出来た方が仕事の幅も広がるからねえ」
「へえ……。ああ、そういえばこの間、社長が穂波くんがいると話が早いって言ってたのは、そのこと?」
穂波くんに訊く。
照れているのかそっぽを向いていた穂波くんだけれど、私の視線に気付いて頬を掻いた。
「いちいち専門の業者を呼んでたら手間だろ? 自分で出来れば一番いい」
「ふうん」
話を聞いて、感心するばかりだ。
高校の時の私って、何を考えてたんだっけ。何に熱中してたんだっけ。ぱっと思い出せないくらい、漠然とした夢しか抱えていなかったような気がする。
同じ時期を、穂波くんは夢に向かって真っすぐに歩いていたんだなあ。
多めに作ったつもりだったのに、用意したものはきれいさっぱりなくなってしまった。
冷茶をきゅっと飲んで、穂波くんは私に笑いかけた。
「ありがとね、美羽さん。午後も頑張れる」
「いえいえ。私も、完食して貰えて嬉しい。大塚さん、お茶のおかわりは如何ですか?」
「じゃあ頂こうかなあ」
開放的な縁側は、そよそよと風が流れ込んできて心地いい。三人で並んで、入道雲の広がる空を眺めた。
「穂波がようやく身を固めるのか」
お茶を飲みながら、大塚さんがぼそりと呟いた。それを聞いた穂波くんがぶほ、とお茶を吹きだす。
「何言ってるの、センセ」
「ここに来て美羽ちゃんを見た時はびっくりした。お前ももう所帯を持つ年齢なんだなあ、ってなあ」
大塚さんはびっくりしてフリーズしてしまった私の方を向いて、ニコニコと笑った。
「職人の奥さんってのは苦労も多いけど、どうか支えてやってね」
「あ、いや、ええと、その」
「センセ、センセ、それ早い!」
頬を赤らめた穂波くんが慌てて言う。私の顔も、大塚さんの言葉の内容に今更反応して赤くなっていた。大塚さんはそんな私と穂波くんを見比べて「あ、まだか」と言った。
「あれだな、口説いてる最中ってことだな、穂波」
「だから! ああもう、言葉選べよ、教師のくせに!」
穂波くんが言うと、大塚さんは大きな声で笑った。
私に向かって話し始める。
「美羽ちゃん、こいつはいい奴だよ。高校の時からもう、自分の行き先を決めてた。建築科に来たのも、家具職人になりたいって夢のためでね」
建築科では工具の使い方、設計図の描き方を学ぶことができる。それを早くから学んで身に着けるのは大事なことであるらしい。
「電気の勉強もしていてね。まあ、配電関係も出来た方が仕事の幅も広がるからねえ」
「へえ……。ああ、そういえばこの間、社長が穂波くんがいると話が早いって言ってたのは、そのこと?」
穂波くんに訊く。
照れているのかそっぽを向いていた穂波くんだけれど、私の視線に気付いて頬を掻いた。
「いちいち専門の業者を呼んでたら手間だろ? 自分で出来れば一番いい」
「ふうん」
話を聞いて、感心するばかりだ。
高校の時の私って、何を考えてたんだっけ。何に熱中してたんだっけ。ぱっと思い出せないくらい、漠然とした夢しか抱えていなかったような気がする。
同じ時期を、穂波くんは夢に向かって真っすぐに歩いていたんだなあ。