シンデレラを捕まえて
「はぁ!? 嘘でしょ?」
真っ先に声を上げたのは、椋田さんだった。
「だって美羽ちゃんは栗原く、あ、いやその」
やはり、椋田さんは、知っていた。口ごもる彼女を見ながら思う。
椋田さんは、私に仕事を教えてくれた大事な先輩だった。怒られたり呆れられたりしたけれど、根気よく仕事を教えてくれて、可愛がってくれた。私は椋田さんが好きだった。
だけど椋田さんにとって、私はそんなに重要な人間じゃなかったのかな。比呂に他に本命の相手がいることを知らない私を、知らないまま辞めていく私を、傍観するだけだったなんて。
私は椋田さんにとって、どうなってもいい人間だったのかな。
堪らなくて、俯いた。
「嘘なんかじゃないですよ。俺、美羽さんのこと、ずっと前から口説いてたんです。最近ようやく俺の事見てもらえるようになって」
私の横で穂波くんが饒舌に語る。
「美羽さんって、俺の運命の相手だって思ってるんです。絶対手放したくないんです。だから、逃げられる前に籍入れちゃいたいなあって、マジで」
「ほ、ほんとに言ってるわけ?」
椋田さんの声が上ずっている。
「当たり前じゃないですか。さっき姐さんだって言ってたじゃないですか。狙ってるんでしょ、って。狙ってましたよ、で、落としましたよ」
すげえでしょ、と言って穂波くんは私の肩を抱く手に一層の力を込めた。
「え、あ、本当なの、美羽ちゃん?」
「あ、えと」
本当な訳がない。穂波くんとは、この店の中でだけの関係でしかない。
彼の本意は何? どうして急にこんなこと言い出したの?
顔を見上げると、穂波くんがふっと顔を近づけてきた。耳元でぼそりと囁かれる。
「みんな、美羽さんがあいつに遊ばれてたこと知ってる。美羽さんは、何も知らないでいた可哀想な子のままで終わりたいの?」
「……っ」
穂波くんに言われて、ああ、と愕然とする。崩れ落ちてしまいそうだった。
この雰囲気は私の勘違いじゃなかった。みんな、知っていたんだ。私が何も知らないまま捨てられようとしているのを、みんなは知っていた。
なのにこんな会をわざわざ開いてくれたのは、私が無知の、可哀想な子だと思ったからなんだね。それは同情? それとも馬鹿にするため?
視界の隅に、比呂がいる。比呂の腕に薫子さんが抱きつくようにして、寄り添っていた。比呂は頑なに、私の方を見ようとしなかった。
「ひどい、よ……」
涙が溢れた。
その瞬間だった。
ぐい、と掴まれた肩に力が籠められ、顎に手がかけられる。無理やり上を向かされた私の唇を、穂波くんのそれが塞いだ。
真っ先に声を上げたのは、椋田さんだった。
「だって美羽ちゃんは栗原く、あ、いやその」
やはり、椋田さんは、知っていた。口ごもる彼女を見ながら思う。
椋田さんは、私に仕事を教えてくれた大事な先輩だった。怒られたり呆れられたりしたけれど、根気よく仕事を教えてくれて、可愛がってくれた。私は椋田さんが好きだった。
だけど椋田さんにとって、私はそんなに重要な人間じゃなかったのかな。比呂に他に本命の相手がいることを知らない私を、知らないまま辞めていく私を、傍観するだけだったなんて。
私は椋田さんにとって、どうなってもいい人間だったのかな。
堪らなくて、俯いた。
「嘘なんかじゃないですよ。俺、美羽さんのこと、ずっと前から口説いてたんです。最近ようやく俺の事見てもらえるようになって」
私の横で穂波くんが饒舌に語る。
「美羽さんって、俺の運命の相手だって思ってるんです。絶対手放したくないんです。だから、逃げられる前に籍入れちゃいたいなあって、マジで」
「ほ、ほんとに言ってるわけ?」
椋田さんの声が上ずっている。
「当たり前じゃないですか。さっき姐さんだって言ってたじゃないですか。狙ってるんでしょ、って。狙ってましたよ、で、落としましたよ」
すげえでしょ、と言って穂波くんは私の肩を抱く手に一層の力を込めた。
「え、あ、本当なの、美羽ちゃん?」
「あ、えと」
本当な訳がない。穂波くんとは、この店の中でだけの関係でしかない。
彼の本意は何? どうして急にこんなこと言い出したの?
顔を見上げると、穂波くんがふっと顔を近づけてきた。耳元でぼそりと囁かれる。
「みんな、美羽さんがあいつに遊ばれてたこと知ってる。美羽さんは、何も知らないでいた可哀想な子のままで終わりたいの?」
「……っ」
穂波くんに言われて、ああ、と愕然とする。崩れ落ちてしまいそうだった。
この雰囲気は私の勘違いじゃなかった。みんな、知っていたんだ。私が何も知らないまま捨てられようとしているのを、みんなは知っていた。
なのにこんな会をわざわざ開いてくれたのは、私が無知の、可哀想な子だと思ったからなんだね。それは同情? それとも馬鹿にするため?
視界の隅に、比呂がいる。比呂の腕に薫子さんが抱きつくようにして、寄り添っていた。比呂は頑なに、私の方を見ようとしなかった。
「ひどい、よ……」
涙が溢れた。
その瞬間だった。
ぐい、と掴まれた肩に力が籠められ、顎に手がかけられる。無理やり上を向かされた私の唇を、穂波くんのそれが塞いだ。