シンデレラを捕まえて
「――今日もお疲れー!」

「おつかれさま」


グラスを軽く合わせて、口をつける。しゅわしゅわの冷たい飲み物はするりと喉を通っていった。


「旨いよ、美羽さん。ビールにぴったり」


箸をつけた穂波くんが褒めてくれる。

揚げ出し豆腐に茄子となめこのお味噌汁。
オクラの梅和えにピーマンの煮びたし、枝豆の東煮。

和食入門ブック、フル活用させていただきました。
出汁の取り方を間違って覚えていたことや、東煮なんて料理を初めて知ったことはヒミツだ。

お酒が入った穂波くんは、いろんな話をしてくれた。高校時代の大塚さんがどれだけ怖い先生だったか、どんな面白い友達がいたか。
女子高、女子大と進んできた私には新鮮すぎる話ばかりで、私は笑ってそれを聞いた。見ることは永遠に叶わない、過去の彼を知るのは楽しくてならなかった。

食事の後は、二人で食器の片づけをした。

私が洗った茶碗を、隣に立つ穂波くんが一つ一つ布巾で拭いていってくれる。
その間も、面白おかしく高校時代の話をしてくれるものだから、私は笑い通しだった。未知の世界の住人だった男子高校生が、無邪気でかわいい生き物だなんて知らなかった。誰しもそうなのか、穂波くんの周辺だけなのかは、分かんないけど。


「高校生の穂波くんに会ってみたかったなあ」


スポンジを手にした私は、思わずそう漏らしていた。


「どんな男の子だったんだろ。きっと、かわいかったんだろうなあ」


くすくすと笑って言うと、布巾を持っていた大きな手が止まった。


「俺も会いたかったよ。その頃の美羽さんに。ずっと探してたんだもん」


並ぶ肩は拳二つ分ほどの差がある。私は横にいる穂波くんの顔を見上げた。ばちん、と視線がかみ合う。


「穂波、くん?」

「時間かかったけど、見つけられてよかった」


くすりと穏やかに笑んだ彼と、束の間見つめ合った。


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