シンデレラを捕まえて
「ねえ……。シンデレラが私で、よかったの?」


目を逸らさないまま、訊いた。穂波くんもまた、視線を外さないまま「うん」と答えた。


「美羽さんだから、よかった」

「……ネックレスを持ってなくても、そう言ってくれる?」


ずっと、悩んでいたこと。それを口にするのは少し怖かった。
穂波くんが、私が一番好きな笑みを浮かべた。


「持ってなくても、俺は美羽さんを、好きになったよ」


躰の奥が震えた。だってそれは、私が何よりも欲しかった言葉だ。


「初めて、聞いた……」


思わず言う。穂波くんから直接的な言葉を貰ったのは、これが初めてだった。


「初めて言った。言えなくてごめん」


穂波くんが続ける。


「ネックレスがあったから特別、みたいなこと言っただろ、俺。あれ、妙な受け取り方されたかもってずっと反省してたんだ。あれはさ、どうしても特別だって分かって欲しくて言ったことで、でも、おまけみたいなものなんだ」

「おまけ?」


スポンジとお皿をシンクに置いて、穂波くんと向かい合った。穂波くんは、躊躇いながら言った。


「GIRASOLがオープンしてすぐの時、美羽さんが来店したんだ」

「……? うん」


頷いた。確か、ボンヌのみんなで行ったんだ。


「店に入った美羽さんは真っ直ぐに、椅子に向かって行って、言ったんだ。『この椅子すごくかわいい。自分の部屋に欲しい!』って」


布巾を置いた穂波くんが、私の頬に片手を添える。


「すげえ、嬉しかった。だってもうまっしぐらだったんだ。目に入ったら体が勝手に動きました、みたいな。俺、それ見てて鳥肌立った。自分が作った物が誰かに一目惚れされる瞬間を、初めて見たんだ」


それだけは、はっきり覚えている。店に入ってすぐに目に飛び込んできたのはあの椅子だった。淡い光を受けた椅子はすごく素敵で、私はそれを欲しいと叫んだんだ。


「何だあの子、すげえ。そう思ったらもう美羽さんが気になって仕方なくて。それから、暇さえあればGIRASOLでバイトみたいな真似して、美羽さんが来るの待ってた。美羽さんはいつだって店に点在する俺の家具を愛おしそうに見てくれた。一度は俺に、『ここのインテリア、すごく素敵ですね』って言ってくれたんだよ。覚えてないだろうけど」

「……う、そ」

「嘘じゃないから、しょっちゅういただろ? セシルさんに頼んで、ボンヌから予約が入ったらすぐ連絡してもらうようにしてたくらい」


ちょっとキモい? 穂波くんが照れたように笑った。


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