シンデレラを捕まえて
「美羽さんの首元にあのネックレスがあることに気付いたのは、俺がすっかり美羽さんのこと好きになった後だったよ。やっぱりこの人は俺の運命の人だって思った」


視界が潤む。溢れた涙を、幅広の指先が拭ってくれた。


「ネックレスがあろうとなかろうと、美羽さんのことが好きだよ。だけど、美羽さんがあれを手にしたのは偶然なんかじゃなくて、必然だったんじゃないかなって俺は思う。俺の作品をいつだって好きだって言ってくれる美羽さんだから、あれを見つけてくれたんだ」


なんて、幸せな言葉をくれる人なんだろう。
ぼろぼろと溢れる涙を丁寧に拭ってくれる人を、心から愛おしく思う。


「ありが、とう」

「俺こそ、ありがとう。あの時美羽さんが見つけてくれたから、今の俺がいる」


見上げると、穂波くんの顔。少し肉厚な唇がぴくりと動いた。そっと近づいてくるそれを、瞼を閉じて迎えた。
柔らかく触れる温もり。大きな腕が腰に回った。引き寄せられるままに、身を預けた。
啄むような口づけを交わす。彼の唇が甘く食んでくるたびに、幸福感で躰が震えた。

どれだけそうしていたのか、ふっと穂波くんの温もりが離れた。
すっかり止まってしまった涙の残骸を指腹で拭ってくれた穂波くんは、困ったように笑った。


「ごめん。え、と。茶碗、洗ってしまおっか」

「あ、う、ん……」

「あと少しだし、ね」


穂波くんは置いていた布巾を取り上げて、水滴の付いたお皿を拭き始めた。
もしかしてこのまま、と思っていた私は少しだけ気恥ずかしくなって、慌ててスポンジを取った。


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