シンデレラを捕まえて

＊　＊　＊

翌日も、前日と同じくらい暑い日だった。

穂波くんと大塚さんは汗だくになって作業をし、私はそんな二人を遠くから見学させてもらった。
大塚さんが来てくれたおかげで、仕事に少しだけ余裕が生まれたらしい。穂波くんが自分の作業について説明してくれることもあった。


「穂波くんの作る家具ってどれも手触りがいいよね。私が部屋で使ってるテーブルと、全然違う」


最初に来た時に置かれていた椅子は、既に完成されていた。その木肌を撫でながら言うと、「仕上げが違うんだよ」と穂波くんが作業の手を止めて言った。


「仕上げ？」

「そう。木の触り心地が変わるのは、ウレタン塗装じゃなくって、オイル仕上げをしてるからだね。オイル仕上げだとこまめなメンテが必要だけど、でも木が呼吸できる分、長く使い続けられる」


ウレタンで表面を塗装すると、傷が入りにくい、汚れに強い等のメリットがある。しかし、木が呼吸できない分クラック（ひび）や反りなどの木材の変化が見られるというデメリットもある。
ウレタンは十年ほどで劣化し、細かなひびなどを生じさせるが、その際のメンテはなかなか難しい。

対してオイル仕上げの場合は、被膜で保護していない分傷や汚れに弱い。水なども、そのまま放置しているとシミになってしまう。乾燥にも弱い。

しかし、木の素材感や感触は残るし、長く使えばシミや汚れも味の一つと変わってゆく。こまめな手入れは必要だけれど、それさえやっておけば長く使い続けることが可能なのだ。

そんな風に丁寧に説明してくれたので、私はうんうんと頷いて聞いた。そんな加工の違いがあるなんて知らなかった。


「あとはね、まあこれはこっち側の事情なんだけど」


穂波くんがくすりと笑った。


「ウレタン塗装の場合は、専用のブースが必要なんだよね。埃が対象物にくっつかないように、細心の注意も必要なわけ。でも、オイル仕上げはそこまで埃を気にしなくていい。刷毛で塗って磨いてくってやり方だから。俺はもっぱらオイル仕上げです」

「ふうん。そう言われたら、そうね。工房にある家具も、ＧＩＲＡＳＯＬのものも、みんな手触りが良かった」

「ＧＩＲＡＳＯＬの家具は俺が定期メンテをしてるんだ。長く使ってもらいたいからさ。他のお客様でも、依頼があればメンテに伺ってるよ」


へえ、と感心する。確かに、ＧＩＲＡＳＯＬの家具はどれも綺麗だ。穂波くんがよくＧＩＲＡＳＯＬにいたのは、そういう理由もあったのかもしれない。


「そこが、オーダー家具の良さだよねえ」


大塚さんの言葉に頷く。自分の理想通りの家具を長く使い続けられるというのは素敵なことだと思う。使い続ければ続けるほど、味が出るんだから。