血液は恋の味

「私、今夜――」

「決まったら、紹介しなさい」

「はい」

 気持ちを後押ししてくれる言葉に、リディアは大きく頷く。そして、想い人が訪れる夜を待つ。

 これにより、互いの運命が交じり合った。




 部屋の中に充満していたのは、噎せ返るような薔薇の香り。その香りにリディアは、何が起こったのか把握できないでいた。

 目の前に広がるのは、赤という色彩。

 何と部屋全体に、薔薇が敷き詰められていた。

 この時間帯にこのようなことを行う人物は、一人しかいない。

 リディアは口許に手を当てクスっと笑うと、その人物の姿を追い求めるように視線を動かす。

 だが、それらしき人物は何処にもいなかった。いつもなら寝台に腰掛けているはずだが、今日に限って姿を消していた。

 姿が見えないことに、リディアは悲しげな表情を浮かべる。

 そして開いていた窓を閉めようと近づいた瞬間、黒い大きな塊が部屋の中へ飛び込んできた。

 その唐突な出来事に、リディアはか細い悲鳴を発する。

「だ、大丈夫?」

「い、いたたた。急いでいたから、失敗した」

「怪我は?」

「俺は、吸血鬼だ。このくらいは、平気さ」

 待ち焦がれていた人物の登場にリディアは微笑むと、薔薇が敷き詰められた床の上に座り込む。

 するとエルドも向かい合うように床に座り込むと、リディアの両手を掴み愛の告白をした。

「わかりました」

「ほ、本当か!」

「貴方は今まで出会った人の中で、一番情熱的です。そして、優しい方。面白いというのも、あると思います」

「一生、大切にする」

「なら、お願いを聞いてください」

 リディアの言葉にエルドは、何度も頷く。

 愛する人物からのお願い。聞けないわけがなかった。

 しかしその内容を聞かされた瞬間、エルドは目を丸くする。それは何と、吸血禁止令であった。
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