血液は恋の味
「ど、努力はする」
「有難うございます。その代わり、美味しい料理を作ります。そういえば、お名前は何と……」
「俺の名前は、エルドだ」
「私は、リディアと申します。私のような者を選んでくれて、嬉しいです。これから、よろしくお願いします」
この告白から一週間後、二人はささやかな結婚を行った。
これにより多くの男達が悲しみに暮れたというが、誰も二人の仲を裂こうとはしなかった。
ただ祝福の言葉を述べ、幸せを願う。
そしてこの話は、リディアの故郷では語り種となっていた。
◇◆◇◆◇◆
「母さんが吸血を禁止した訳、わかった気がする」
話が終わると同時に、カイルは素直な感想を発する。
吸血禁止の訳――それは、リディア以外の女性の血を啜ってほしくないという、女心が含まれていたからだ。
要は、可愛い嫉妬心だ。
若々しい姿を保ち続けている理由。それが判明した瞬間、カイルは満面の笑みを浮かべる。
女の美しさは、恋人や夫次第。そのことに関しては縁のないカイルであったが、知識として知っておくのはいいことであった。
何事も将来の為。しかし、今のところ彼女はいない。
「良い話だろ?」
「僕は、恥ずかしいと思う」
「好きになったら、理性は吹っ飛ぶものだ」
腰に手を当てると、エルドは高笑いをはじめた。
そんな父親に冷ややかな視線を送りつつ、カイルはリディアに今後の夫婦関係を揺るがすような質問を投げ掛ける。
その瞬間、笑い声が止まった。
「見捨てないわ」
「ほ、本当だな」
「ええ、本当よ」
「母さん、優しすぎ。このような人物、見捨てていいよ。離婚したら、母さんについていくから」
結婚記念日に相応しいとは思えない内容に、エルドはシクシクと泣きはしめてしまう。
どのような態度を取られても、カイルは可愛い息子。リディアの血が混じっているのだから、愛さないわけがない。