血液は恋の味
180年生きていながらこの性格。明るいというのは褒められる部分であるが、子供っぽい性格は直してほしいとカイルは思う。
父親という存在。
やはり多少の威厳というものを見てみたいと思うのが正直な感想であり、何より吸血鬼という種族の誇りが感じられない。
「どうして、僕に話すの?」
「それは、息子だからだ」
「理由になっていないよ」
「まあ、いいじゃないか」
ガハハハと大笑いする姿は吸血鬼というより、ただの中年の親父に等しかった。
黙って座っていれば、女性が黄色い悲鳴を上げるほどの面立ち。
しかし口を開けば、煩いほどの惚気話。
いい加減、カイルはうんざりしていた。
「いいとは、思わないよ」
「お前の未来の為に、聞いておいて損はない」
「僕は、まだ結婚はしないよ」
「そういう奴ほど、早く結婚するものだ。何故なら――」
長々と語りだすと察したカイルは、その会話を途中で遮るように言葉を発する。
それにより上手く言葉を中断させることができたが、語ることができなかったことに父親――エルドは、悔しそうであった。
「何で母さんが父さんと結婚したのか、いまだに謎だよ。僕が女だったら、父さんみたいな相手は嫌だな」
「酷いことを言う。だから――」
「聞きたくない!」
堪り兼ねたカイルは、両手で耳を塞いでしまう。
何故こうも同じことを繰り返すのか、カイルにとっては未知の領域の出来事であり、耳に蛸ができる思いであった。
だが好きな思いでは何回でも語りたいというのが、人間の心情。
しかしエルドは、人間ではなく吸血鬼。
どうやら現在の奥方――リディアと結婚したことにより、性格が変わってしまったのだろう。
その考えに納得できないわけでもないが、だからといって惚気に賛同できるほどカイルの心は広くはない。
「しつこいのは、嫌われますよ」
「大丈夫だ」
「カイルは、嫌がっていますわ」
二人の会話に割って入ってきたのは、噂の人物リディアであった。
どうやら先程までの会話を聞いていたのだろう、クスクスと笑いながら熱々の料理をテーブルの上に並べていく。