血液は恋の味
料理は結婚記念日を祝うパーティーにしては、質素な内容であった。
毎年豪勢な料理を作るリディアであったが、今年に限ってそれを行わない。
不思議に思ったカイルはその理由を尋ねると、リディアは笑いながら理由を話していく。
すると次の瞬間、カイルは爆笑した。
「吸血鬼じゃないね」
「煩い。仕方がないことだ」
聞かされた答えは、信じられないという言葉が相応しいものであった。
何と吸血鬼であるエルドは、血を啜ったと同時にぶっ倒れてしまった。
それも身体が拒絶反応を起こし、全身に蕁麻疹が浮かんだという。
十数年ぶりの吸血行為。久しぶりの血の味に意気揚々と吸血を楽しんだのだが、結果は無残なもの。
リディアの手によって変えられた身体特徴は、エルドに計り知れないダメージを与えた。
それにより、一週間ほど寝込んでしまった。
そしてパーティーに簡素な料理が並べられたのは、病み上がりという理由によるもの。
エルドにしてみたら濃い目の料理を食したいところであったが、リディアはそれを許さない。
完全に尻に敷かれているエルドに、カイルは含み笑いをもらす。
リディアが結婚をしたのは、20歳の時。それに結婚記念日の年数を足すと、今年で39になる。
お肌の曲がり角に悩まされる年齢であるが、リディアは年齢を感じさせないほど若々しい。
誰かを愛することによって、結婚した当時の印象を保ち続けている。
そのように考えられることもなかったが、恋愛をしたことのないカイルにはいまいち理解しがたい現象であった。
「そういえば、どうして吸血を止めたの?」
「結婚前の約束さ」
「約束?」
「そう。大切な約束よ」
「それ、知らない」
「なら、話そう」
嬉しそうな表情を浮かべたエルドが語りはじめようとした瞬間、カイルは皿の上に盛られたから揚げを口の中に詰め込み、無理に話を中断させた。
何も語るのは、エルドでなくともいい。
やはりこの場合は、吸血鬼に吸血行為を止めさせたリディアに話を聞くのが、一番であった。
「ちょっと、待って。話の前に、これを――」
カイルはテーブルの上に置かれたティーポットを手に取ると、ティーカップに並々と紅茶を注ぐ。