血液は恋の味
そしてリディアの好みである角砂糖ひとつを赤茶色の液体の中に落とすと、ティースプーンと共に差し出した。
その動きは、エルドへ見せていた態度とは明らかに違っていた。
「有難う」
「お、俺にはないのか?」
「父さんは、自分で淹れる」
冷たい息子からの仕打ちに、エルドはちょっぴり涙を浮かべてしまう。
しかし、リディアは助けてはくれない。
どうやらカイルの味方につくことを選んだのだろう、先程から笑みを絶やさない。
予想外の妻の仕打ちにエルドは、身体を震わせてしまう。
どのような立場に置かれようが、リディアは夫の味方に立ってくれる。
だが、今回は違う。
可愛い息子の味方をし、笑っていた。
どのような言葉を掛けようと、リディアの首が縦に振られることはない。
すると説得に諦めたエルドは、渋々ながらティーポットを手に取ることにする。
そして中身を注ぎ入れようと傾けるが、中身が出てこない。
そのことに茶葉が詰まっているのだろうと勘違いしたエルドは、ティーカップを左右に降りはじめる。
そして勢いよく注ぎ入れようと傾けるも、やはり紅茶が出てくることはなかった。
「お湯は?」
「自分で」
「くそ!」
「父さん、ぼやかない」
「父親は、大黒柱だ」
吐き捨てるように毒付くと、エルドはお湯を注ぎにキッチンに向かう。その後姿は、何処か哀愁が漂う。
しかしそのような空しい姿であったとしても、リディアは声を掛けなかった。
そんなエルドの姿を眺めつつカイルは、リディアに「吸血の件」について、質問をしていた。
するとリディアは、何かおかしなことを思い出したのだろう、椅子に腰掛けつつ笑みを浮かべていた。
「面白い話なの?」
「そうね」
「ちょっと、気になるかも」
「いいわよ」
そう言った後、リディアは面白おかしく語りはじめた。