血液は恋の味
それは衝撃的な出会いであり、今でも語り継がれている物語。
まさに、恋愛小説に相応しい内容であった。
◇◆◇◆◇◆
二人の出会いは、今から二十年前。リディアがシスターとして、淡々とした毎日を送っていた頃まで遡る。
その当時のリディアは今の姿から想像できないほど、堅物な女性であった。
信心深いリディアは毎日のように神に祈りを捧げ、悠久の平穏を願っていた。
それが自身の役割だと認識し、当時の彼女からは恋愛の“れ”の字も感じないほど、厳格な存在に近かった。
しかし、外見や立ち振る舞いが美しい彼女。
多くの者達から尊敬と憧れの眼差しを送られ、多くの異性から声を掛けられた。
だが神に仕える身分と言う理由で、全てを断っていく。
まさに、高嶺の花。だが、逆にその純潔さが男達の情熱に火をつけ、ますます過熱する始末。
それによりリディアの修行は妨げられ、悩む毎日が続く。
周囲に相談しても良い方向へと向かず、頭の痛い日々を送る破目となってしまう。
お陰で、下手に外へと出られなくなってしまった。
「大変だね」
「申し訳ありません」
「こればかりは、仕方ない。恋心を封じることは、不可能に近いものだ。逆に封じれば封じるほど、沸き起こる」
神父からの言葉に、リディアは力なく頷く。リディア自身、恋というものがどのような意味合いを含んでいるかはわかっていた。
わかっているからこそ、一筋縄ではいかないと判断できた。
「あの……神父様」
「何かな」
「その……」
リディアの悩みは、実のところひとつだけではなかった。
此方の悩みは異性から求婚されるという意味では酷似していたが、いかんせん相手が違った。
そう、その者は人間ではない。
「悩み事なら、話なさい」
「はい。実は――」
苦笑いを浮かべながら、リディアは自身の身に起こった出来事を話していく。