血液は恋の味
当初は柔和な表情のままその話を聞いていた神父であったが、とある単語を聞いた時、表情が一変する。
まさに、予想外。そして、その意外性に笑い声を発していた。
「そうだったのか」
「私は、困ります」
「シスターだからといって、恋を封じることはない」
長年、多くの結婚式に立ち会ってきた神父の言葉は、とても重みのある内容であった。
神に仕える者は、一生独身を貫くのは過去の話。今ではシスターであったとしても、普通に結婚をしている。
よって好きな相手が見つかれば、その人物と一緒になることは可能であった。
しかし一途に古い決まりごとを守り続けているリディアにとって「結婚」という二文字は、頭の中にはなかった。
「では、彼のことはどうするのかね」
「それが、問題です」
「考えているということは、嫌いではない」
鋭い指摘に、リディアは頬をほんのり赤く染めてしまう。
確かに今まで求婚をしてきた異性よりは、嫌いではなかった。情熱的であり、何より心が伝わってきた。
そして何より、面白い。
リディアに求婚をしている人物。それは、吸血鬼であった。
何故、吸血鬼が人間に惚れたのか――その理由は一言で説明できる内容であり、思い出す度に笑ってしまう。
要は、一目惚れだ。
吸血を目的に忍び込んだのは、リディアが使用している部屋であった。
吸血鬼という種族がこの世にいるとは知っていたリディアであったが、その者を目の当たりにした瞬間、悲鳴を発してしまった。
それにより相手は怯んでしまい「すまなかった」と、土下座をして謝ってきたという。
恐ろしいイメージがあった、吸血鬼の意外な一面。
その何とも情けない姿に、リディアは心が奪われてしまった。
「彼等は、我々と同じだ」
「はい。姿形が異なっていましても、同じ大地に生きる者同士です。彼等もまた、神の御心によって生まれました」
「そして、出会いも神の御心だ」
「神父様、私は――」
どのような意味合いで言った言葉なのか理解したリディアは、珍しく反論の意を唱えていた。
しかし神父は、首を横に振る。
彼に言わせれば、全ての存在が幸せになってほしいという。