血液は恋の味
「それは、凄い」
毎日行われるプレゼント攻撃。
それが開始したのは、今から二週間前。
当初はうんざりとしていたリディアであったが、近頃では相手が来てくれるのを待っており、語られる言葉を楽しみにしていた。
無論、それは愛の告白。だが、そればかりではない。
人間同様、彼等の間にも昔話というものが存在した。
リディアはそれを子供のようにはしゃぎながら聞き入り、面白おかしく過ごす。
いつの間にか、それが日課のようになっていた。そしてこれが永遠に続いたらいいと、思いはじめたのも事実。
だからこそ、夜な夜な訪れる吸血鬼を拒絶することはしない。
名前を聞いていない、名無しの吸血鬼。
共に同じ道を進むというのなら、名前を聞くべきだと神父は言う。だがその前に、気持ちは決まっていた。
だからこそ、神父にこのことを話した。心の底から嫌いな人物であったら、真剣に相談などしない。
いや、それ以前に拒絶の意を表していただろう。
だが、リディアはそれを行わない。
締め付けられる心。
全身に広がる、表現しがたい想い。
そして、赤く染まる頬。
それらは――
「最後に結論を出すのは、自分自身だ」
「……はい」
恋をしたことにより、堅苦しいイメージが消えていた。これこそ、彼女の本来の姿。
今までは、周囲の目を気にし真面目を演じていた。それにより必要以上に負担を掛け、苦しむ毎日を送る。
リディアは、周囲にそれを気付かれないように隠していたが、神父は気付いていた。
長い間、人々の悩みを聞いてきたことにより、少しの心境の変化を見抜ける能力を見につけていたからだ。
しかし、言葉を掛けることはない。神父は、リディアから話してくれるのを待っていた。
だからこそ今回このことを話してくれたことは、神父にとっては嬉しい出来事であり、永遠の幸せを願う。
神父は神に仕えるということで、独身を貫いていた。
よって、愛すべき妻子は存在しない。
一見幸せな生活を送るリディアであったが、過去を見れば孤独な神父と同じ生き方をしていた。