血液は恋の味
彼女は孤児院育ちであり、本当の両親の顔を知らない。
そんな孤独の毎日を埋めたのは信仰心であり、命が尽きるまで神に仕えようと考えていた。
しかし、吸血鬼と出会い一変した。
「式を行うのなら、立ち会おう」
「まだ、早いです」
「いや、わからない」
「そのようなものでしょうか?」
「長年、見ていればわかるものだ」
恋愛経験に乏しいリディアにしてみたら、どのような根拠を持って述べているのかわからなかった。
だが、ひとつだけ理解できた。
それは二人をくっつけることに、躍起になっている。
この機会を逃したら、リディアは独身のままでいるだろう。
これもまた彼女の人生なので他人が口出しする権利はないが、好きな者同士切り離すのは可哀想だ。
それに、リディアは義理の娘。
義父の心境としては、真っ白いドレスを着ている姿を見てみたいと思うところだ。
そして何より、新しい家族を作ってほしかった。
血の繋がりがある子供を産み、優しい旦那と生活を送る。
それができるかもしれないというのに、それを無下に捨てることはない。
「……有難うございます」
「礼を言われることではない」
「ですが」
「そう思うのなら、幸せになりなさい。それと君のもとへやって来る者達の対処は、やっておこう」
リディアに言い寄ってきた人物の対応は、かなりの苦労を要するとわかっていながら、神父はその役を買って出た。
それは義理の娘への愛情であり、何より神父という立場があったからだ。
流石に聖職者相手に、何かを行うことはできない。もし行った場合、相手が非難の目に晒される。
それにリディアの身の回りの出来事は有名であり、下手な行動は逆に自身の首を絞めてしまう。
よってきちんと説明をすれば、彼等は引き下がると神父は確信していた。
いや、理由はそれだけではない。彼等に、犯罪を起こさないでほしいと思っていた。
リディアを取られたということで、事件を起こす。
そんな馬鹿らしい行為で、一生を棒に振ってほしくない。
たとえ相手がどのような人物であろうと、神の下では平等。聖職者である神父にしてみたら、差別をする要素がない。
そしてリディア以外の女性を見つけ、幸せになってほしかった。