揺らめく焔
「一週間後程からこの隊は隊長、副隊長がいない部隊となる。部隊長関係の書類は先に終わらせておけ。」
「え?」
シャルドネにリコリスは目を丸くする。
そして、勢い良く立ち上がり、身を乗り出した。
「それって、シャルドネさんが移動になるってことですか!?」
「いいや。元帥管理に部隊になるだけだ。」
「……元帥管理?」
リコリスは良くわかってない顔をした。
「一週間後の任命式を以て、私は元帥となる。」
「すごい!!やったじゃないですかー!……もう、それならそうと言ってくださいよ!私、シャルドネさんがこの隊から居なくなるのかと心配したのですからね!」
「私が居なくとも務まるよう、自立しろ。」
「そういうことじゃなくって!さびしいでしょー。」
「?」
今度はシャルドネが良くわかっていない顔をした。
「……シャルドネさんって、こういうところ鈍感ですね。」
じとっとリコリスが見つめる。
「それだけ大事ってことですよ。傍にいるのが、好きなのです。」
リコリスが微笑むと、シャルドネは何も答えずに書類を束ねる。
「……変なこと言ってすみません。」
沈黙を嫌悪と思い、慌てる。
シャルドネの顔は束ねた書類が遮って見えない。
「それは、冗談か」
問いにも確信にも聞こえる声。
束ねた書類の端から少しだけ見えた耳は赤く染まっている。
「本気ですよ。……って、シャルドネさん?」
それに気付いたリコリスが覗き込む。
「見るな!書類しろ。」
「えー?」
リコリスが書類を取り上げると、シャルドネはそっぽを向いた。
「照れてるー!」
「……うるさい。」
そう言いながら、リコリスを睨んだ。
「そう評価されることは不慣れだ。」
「でしょうね。」
(そりゃあ……慣れてたら、嫉妬するよ。)
シャルドネはリコリスから書類を取り返す。
「そういうことは別の者に言うべきだ。」
そう呟いた。
「何故、ですか?」
「私の傍を好むことは、厄介事に関わることだ。」
(それに、私は……)
「厄介事はなんとかなりますよ。人生にそういうことは付き物です。」
リコリスはシャルドネを見つめる。
心なしか、様子がおかしいように見えた。
(胸騒ぎがする。)
そう思うリコリスをよそに書類に向き合うシャルドネを見て、自分も書類に向かう。

書類を終え、帰宅する。
時刻は深夜三時。
日付を越えていた。
「こんなに遅くなったな。泊まるか?」
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