揺らめく焔
「そんなわけ無いでしょ!」
「冗談だ。」
シャルドネがそう言うと、リコリスはきょとんとした。
「何だ?」
「シャルドネさんって、冗談言えるんですね。」
「心外だな。私とて、そういうこともする。」
「……認識を改めます。」
(笑った……)
むすっとした後にシャルドネが悪戯っぽく笑うと、リコリスはぱちぱちと瞬きをして言う。
「ここで暫く待つのなら、車で送る。そうでないのなら、徒歩だが。」
「待ちます!」
「解った。」
そう言うと、リコリスを部屋に残し、シャルドネは早足で去った。
リコリスはシャルドネの机を見る。
(……少しくらい、漁ってもいいかな。)
そう思いながら、引き出しを開ける。
綺麗に整頓された中は、手前に判子やインクの替えなどがある。
そんな中、封筒だけが雑に置かれていた。
(なんだろう。)
既に開封済のようなので中身を見る。
“シャルドネ・ユーベルヴェーク”
その名前に目を見開く。
(ユーベルヴェーク家に戻るということ?)
そして、文章には元帥昇格のことも書かれていた。
(けれど、どうして?ユーベルヴェーク家には跡取りも居る。わざわざ、戻らせる理由もない。)
暫く考えていて、扉を叩く音で振り向いた。
「やばっ!」
そう言いながら、封筒を元に戻す。
「早くしろ。文句を言われるのは面倒だ。」
そう言いながら、外へ出た目の前に止めてある車に乗る。

そして、リコリスの家へ向かう。
「シャルドネさん。」
「何だ?」
「どうして、今更、ユーベルヴェーク家に?」
「何故知っている。」
ごく自然に間抜けにも訪ねてしまい、シャルドネは眉間に皺を寄せる。
「勝手に見ました。すみません。」
「自分から白状するだけマシだな。」
溜息混じりに言う。
「……まぁ、物色されなくとも一週間後にはわかる話だったがな。これが機密文書だったらただじゃ済まない。」
「ごめんなさい。」
「良い気分はしないが、許さない程には心が狭くない。」
そう淡々と言う。
「ユーベルヴェーク家は跡取りも決まっていて、何も問題はないはず。」
「使える物はある方が良い。それだけの話だ。」
「物って……どうして、そんな簡単に自分を物のように扱えるのですか!」
リコリスは目尻をつり上げた。
「私は、そういう役目だ。」
そう言った気がした。
「何も怒る話じゃないだろう。」
「もっと、自愛ください。」
「?」
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