揺らめく焔
ここは、軍の医務室らしい。
「だから、病院に行きなさいと言ったのです!」
「あぁ。」
起き上がると、痛みが走った。
「!」
蹲ると、汗を掻いてることに気がついた。
「ほら、寝てないとだめですよ。」
そう言われて横になる。
仰向けよりもこうして蹲る方が幾分かはマシだった。
「……随分、魘されてましたよ。何か、悪い夢でも見たのですか?」
「関係がない話だ。」
これ以上、背負わせることは気が引ける。
「執務に戻れ。」
「いいえ!私もここにいます。そうじゃないと、仕事に行こうとするでしょ?期限なら、クレアフィール閣下が交渉してくれたそうなので。」
リコリスはシャルドネを睨んで言う。
「それに……関係なくないですよ。心配です。」
「何故、私を気遣う。」
「大切だからです。」
シャルドネは不思議そうな顔をする。
「だから、苦しい時は何かしたいって思うし、無理しないで欲しいのです。……貴方はいつも、自分の気持ちを押し込んでいるみたいだから。」
「これ以上、無様な姿を見せることが出来るか。」
ぽつりと言った言葉は無意識だ。
胸の内が刺さるように痛かった。
「無様でも、私は離れていったりしませんよ。見限ったりしません。」
こんなにも脆い男だっただろうか。
そんなことを思いながら、そっと手を伸ばす。
「ひとりではないときだけですよ?誰かに頼れるのは。」
「……」
シャルドネは黙って伸ばされた手の指先を掴んだ。
その手は消えそうなくらいに弱い。
リコリスはその手を包むように握った。
「ここにいます。」
「……ありがとう。」
安堵するようにシャルドネは笑う。
「もう、大丈夫だ。」
そう言った後、少し考える。
「……もう少し、このままで構わないか?」
「気が済むまでどうぞ。」
照れくさそうに言うシャルドネにリコリスは微笑んだ。

回復した後、二人が猛スピードで書類を終わらせに向かったのは言うまでもない。

念の為に医者に診てもらったが、特に異常はない。
「むしろ、これが普通だ。痛覚を失う現象はある意味で精神病だ。それが改善されたことは喜ばしい。……だが、治った傷が痛むとは」
医者は傷を見る。
「化膿や傷が開いたりしている様子はない。痛み止めを処方しておくが、用心に越したことはない。魔女の術ならば、私の手に負えない。」
「はい。」
痛み止めを処方され、診療は終わった。
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