男の子だって恋しちゃう
「あんたねぇっ!返事が聞こえてから部屋入れって何回言ったら分かんのよ!」
「美里だっていつも…」
「あたしは女で唯人は男。これもう決定打」
意味分かんねえよ……
なおも続く理不尽な不満
あちらこちらから持ってきては
過去のことを掘り返してはで
口がいつまでも止まらない美里に
唯人はため息をついた
親から店の差し入れを渡してほしいと頼まれ
唯人はすぐ隣の高嶋家を訪れた
春に切りそろえた髪の毛はぞろぞろと伸び始め
眼鏡にかかりそうな前髪を母親のヘアゴムで軽く結び
気だるそうにあくびをかました
リビングで再放送している刑事ドラマを
ボリボリと歌詞を食べている最中のおつかいだったため
上下灰色のスウェットで家をでた
家をでて数秒で高嶋家につきチャイムを鳴らすと
玄関からひょっこりと、近所でもっぱら美人と評判の高い幼馴染の母親がでてきた
一度も染めたことがないという
傷みがまずみられない艶やかな髪は
肩にかかる程度に綺麗に切りそろえられている
ぱっちりふたえのたれ目がちな目元や
仰月型の唇からは優しそうな雰囲気が感じられる
「あら唯君久しぶりね〜」
「おばさん、一昨日も来たばっかだよ?しっかりしてよ」
「そうだったかしら、だめね〜?ところでどうしたの?」
「母さんが差し入れってこれ」
「あらっ助かるわ〜!あとでお母さんにお礼言っておかなくちゃ、唯君もわざわざありがとねっ」
ビニール袋にずっしりと入った差し入れを渡すと
お茶をだすので上がっていってと言われ
慣れた様子で二階の奥の左側へ入った
ドアをいきなり開けたところで
何かあるなんて普段の美里からは
想像がつくわけもなく
返事を待たずドアを開けた
まず、週に3回は顔を出す高嶋家の玄関に
見覚えのない靴があったことに気づきでもしたら
まだ変な沈黙とその後の美里からの罵声を受けることは無かったのではないか
で、少しの後悔を抱くところの
初恋相手に丸出しすっぽんぽんで
罵声をあびせられる唯人であった