仮
プロローグ
「かんなちゃん。ダメでしょ、こんな汚いもの拾ってきちゃ」
洗濯機の前でママが怒ってる。
ママの腕には、泥で酷く汚れてしまった私のお気に入りのワンピースがかけられていて、手には黒くてツヤのある1枚の羽がのせられていた。
ポケットにいれたままになっていたのを、洗濯前にポケットの中身を確認していたママが見つけたらしい。
「だめ!これ、もらったの!」
私は慌てて、ママの手から黒い羽を奪い返した。
そして、大切に両手に包みこむ。大事な羽なのだ。汚くなんかもない。
「誰に貰ったの?それはカラスさんの羽よ?」
「カラスのじゃないの!おにいさんのなの!」
「お兄さん?おとなりの圭二君からもらったの?」
ママは私と目線をあわせるようにしゃがんで、首をかしげた。
私は違う、と首を振る。
ママはため息を吐いて、私の方へと手を伸ばした。
「それ、ママに頂戴。お外に返しましょ」
「やだ!」
「あ、こら!待ちなさい!」
私はママを振り切って、自分の部屋に逃げ込む。そして、鍵つきの宝物箱に羽をしまった。
キラキラした、おもちゃの指輪やブレスレット、ビー玉、クリップ。
『仕方がないな。これあげるよ』
『きれい!いいの?』
『うん、あげるよ。おまもりだ』
お兄さんの声が蘇る。
色鮮やかな物ばかりが入っている宝物箱。
だけど、真っ黒な羽は、何より1番綺麗にみえた。