――カァー!カァー!


カラスが声を上げている。何かと思って近づけば、小さな狸が数羽のカラスに襲われていた。


丸くなって耐えているが、つつかれ、爪で蹴られ痛そうだ。


私は背負っていたランドセルをおろして、両手に持ち、ゆっくりカラスに近づくと大きく振りかぶった。

走り回って、ランドセルを振り回し、カラスを追い払う。



――ガア!


1匹のカラスに命中し、カラス達が悲鳴のような声をあげて散っていった。


私はその隙に、ぐったりしている子狸に駆け寄り、隣に膝をついた。

あたたかくふわふわした子狸はまだ生きている。


(助けなきゃ!)



家に連れて帰って、ママに見せよう。

私はランドセルを背負いなおして、子狸を抱きあげる。



しかし、数を増して戻ってきたカラス達に、襲いかかられ、私は咄嗟に山の奥へと逃げ込んだ。



枝で腕をすりむこうが、お気に入りのワンピースが汚れようが私は必死でにげた。


そして、走って、走って、ようやくカラス達を振り切った頃には、すっかり山の中で迷子になってしまっていたのだ。


緊張が途切れた私はとうとう泣き出した。


家への帰り道がわからない不安と、腕の中で弱っていく子狸に何もしてあげられない悔しさに、どうにも涙が止まらない。


私は泣きながら山の中をさ迷い続けた。


下りても下りても出口が見えない恐怖に、今にも押し潰されてしまいそうだった。



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