「どうかしたの?」



そんなとき、どこからか涼やかな声がした。


ガサリと木の上から音がしたので、そちらを見上げると、サラサラの黒髪を風になびかせながら、木の上から男の人が飛び降りてきた。



「迷子?」




―ジリリリリリ



「……ん、夢?」



けたたましく鳴る目覚まし時計に、私は現実へと引き戻された。

いや、夢だけど夢じゃない。

あれは昔の私の記憶だ。


9年前。

この街を引っ越す直前に、確かに経験した出来事だった。



(そっか。私は子狸を助けて、裏山に迷い込んだのか)



我ながら、まだ小さかったはずなのに、よくカラスに立ち向かったものだと感心してしまう。


昨晩は思い出せなかった記憶が、鮮明に蘇った。


しかし、最後に出てきた男の人のことは、夢が途中で切れてしまったせいで、詳しく思い出せない。



(多分羽をくれた人だよね)



背中に翼はえてたかな。


思い出せないけど、かなり高いところから飛び降りたのに、男の人は平気で着地していた。



まあ、夢だから、記憶に忠実じゃないのかもしれないけど。



なんか、昨日の先輩に似てた気もするし。


記憶が混ざってしまっているのかもしれない。


私は、いまいち気分が晴れないまま、制服に着替え部屋を出たのだった。
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