仮
「あの、先輩って、兄弟いますか?」
「え、兄弟?」
これまでの経験から、てっきり告白でもされるのかと思っていた俺は、全く状況が判断できなかった。
唐突な質問に、思わず聞き返してしまっう。
八木さんは「変なことを聞いてすみません!」と、早口で言って、俯いてしまった。
白い頬が真っ赤だ。
耳まで赤い。
緊張と焦りが目に見えてわかる。
そんな彼女の様子に、俺は疑問を持たずにはいられなかった。
(ほぼ、初対面なのに、なぜいきなり兄弟の話を?)
しかも、彼女の態度は普通じゃない。
しかし、真っ赤な彼女がいたたまれないので、とりあえず質問に答えることにする。
「兄弟はいないよ」
俺がそう言うと、八木さんはパッと顔を上げ、「そうですか」と、安堵と落胆が混じったような、複雑な表情を作った。
隣の松井さんも、同じ反応を示している。
「あのさ、ちょっと聞いていい?」
俺はそう前置きして、素直に聞くことにした。
「なんでそんな質問をするのか教えてもらえると嬉しいんだけど」
俺がそう尋ねると、八木さんは、少し躊躇ったあと、口を開いた。
「私、昔、先輩によく似た人に助けられたことがあるんです」
「昔?」
「もう9年前になります。第三小学校の裏山で迷子になっていたところを、その人に助けてもらったんです」