仮
心当たりのある話に、思わずドキリとする。
それを悟られないように、俺は落ち着いて、感情が表に出ないように努めた。
八木さんが話を続ける。
「私、助けられたあとに、すぐ引っ越しちゃったので、その人にお礼が言えてなくて。
正体がわかればいいなと思ったんです」
「なるほど。だから俺に聞いてきたんだ。その人は、そんなに俺に似てた?」
「はい。実は、昨日まで殆ど忘れてたんですけど、その人がくれた羽を見つけて思い出したんです。
先輩とよく似ていました、でももう9年も経ってるので、兄弟かと思ったんですけど……」
八木さんは「私の勘違いだったみたいですね」と、恥ずかしそうに謝って、隣の松井さんと去っていった。
俺は、そんな二人を見送りながら、冷や汗を拭ったのだった。